福祉政策は経済学と密接に関わっており、その歴史とともに発展してきました。
経済学の歴史
18世紀~古典派経済学
「経済学の父」アダム・スミス(Smith, A.)は、著書『国富論』で市場原理を「神の見えざる手」に例え、市場は政府が介入するのではなく放っておけば安定する(自由放任主義)と考えました。
ドイツのラッサ―ル(Lassalle,F.)は、このような自由主義国家を「夜警国家」と呼んで批判しました。夜警国家は、国家の役割を国防と治安維持(警察・司法)など、個人の自由や財産を守るための最小限の機能に限定する国家観です。

夜警国家は「小さな政府」で、福祉国家の「大きな政府」の対極にある概念だね。
19世紀~マルクス経済学
アダム・スミスの唱えた資本主義では、貧富の格差が拡大し、失業や恐慌など多くの問題が発生してきました。
そこで、ドイツのマルクス(Marx,K.)は著書『資本論』の中で資本主義を分析し、社会主義(共産主義)を唱えます。
社会には生産手段を持つ資本家(ブルジョアジー)と生産手段を持たない労働者(プロレタリアート)の2つの階級があり、過剰な利益は資本家に帰属するものではなく労働者に還元されるべきものであると考えました。そこで、資本家と労働者という階級が廃止された共産主義を唱えるようになったのです。
その後、ソビエト連邦という社会主義国家が誕生します。
20世紀~ケインズ経済学
イギリスのケインズ(Keynes,J.)は、アダム・スミスと同じ資本主義でありながら、夜警国家ではなく政府が介入する福祉国家を唱えました。資本主義経済では失業者が出るため、政府による公共事業を増やすべきと主張しました。

アメリカのニューディール政策での公共事業も、このケインズ主義だね。
20世紀後半~新自由主義経済学
その後、このような「大きな政府」の影響で行政機構が肥大化し財政赤字が膨らむにつれ、規制緩和や「小さな政府」への回帰が求められました。
そこで現れたのが、新自由主義の代表者であるハイエク(Hayek,F.)やフリードマン(Friedman, M.)の考えを取入れたイギリスのサッチャー政権でした。アメリカのレーガン政権でも導入されています。
まとめ

過去問
第35回 問題24
福祉政策に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 アダム・スミス(Smith, A.)は、充実した福祉政策を行う「大きな政府」からなる国家を主張した。
2 マルサス(Malthus, T.)は、欠乏・疾病・無知・不潔・無為の「五つの巨悪(巨人)」を克服するために、包括的な社会保障制度の整備を主張した。
3 ケインズ(Keynes, J.)は、不況により失業が増加した場合に、公共事業により雇用を創出することを主張した。
4 フリードマン(Friedman, M.)は、福祉国家による市場への介入を通して人々の自由が実現されると主張した。
5 ロールズ(Rawls, J.)は、国家の役割を外交や国防等に限定し、困窮者の救済を慈善事業に委ねることを主張した。
1 アダム・スミス(Smith, A.)は、充実した福祉政策を行う「大きな政府」からなる国家を主張した。
誤りです。アダム・スミスは自由放任主義の「小さな政府」を主張しました。
2 マルサス(Malthus, T.)は、欠乏・疾病・無知・不潔・無為の「五つの巨悪(巨人)」を克服するために、包括的な社会保障制度の整備を主張した。
誤りです。「五つの巨悪(巨人)」といえば、ベヴァリッジです。
3 ケインズ(Keynes, J.)は、不況により失業が増加した場合に、公共事業により雇用を創出することを主張した。
これが正解です。
4 フリードマン(Friedman, M.)は、福祉国家による市場への介入を通して人々の自由が実現されると主張した。
誤りです。フリードマンは「小さな政府」で有名なサッチャー政権が基盤とした新自由主義の代表者ですので、福祉国家による市場の介入とは真逆です。
5 ロールズ(Rawls, J.)は、国家の役割を外交や国防等に限定し、困窮者の救済を慈善事業に委ねることを主張した。
誤りです。このような夜警国家を名付けたのはラッサ―ルです。
第16回 問題2
次のイギリスにおける社会福祉・社会保障制度の発展に関する諸説のうち、誤っているものを1つ選びなさい。
1 マルサス(Malthus,T.)は、『人口の原理』(初版)において、貧困救済は救貧費を増大させるだけでなく家族の絆や労働者の自助努力を損ねさせるとして、救貧法に反対した。
2 ラウントリー(Rowntree,B.)は、『貧困:都市生活の研究』において、ヨーク市の全人口の約3割が貧困状態にあることを明らかにし、貧困問題を社会問題として認識させる契機のひとつとなった。
3 シドニー・ウエッブ(Webb,S.)とベアトリス・ウエッブ(Webb,B.)は『産業民主制論』において、産業社会の発展のため、社会福祉に関する国家の関与、介入を否定し、企業の社会貢献、市民のボランティア活動により福祉国家を形成すべきだと提唱した。
4 ケインズ(Keynes,J.)は、『雇用・利子及び貨幣の一般理論』において、経済市場に国家が積極的に介入を図るべきだという考え方にもとづき、完全雇用政策などを提案した。
5 ベヴァリッジ(Beveridge,W.)は、『社会保険及び関連サービス』に関する報告において、窮乏(Want)、疾病(Disease)、無知(Ignorance)、不潔(Squalor)、無為(Idleness)という5つの巨大な悪への攻撃に対する社会保障政策を構想した。
選択肢3が誤りです。ナショナルミニマムを提唱したウェッブ夫妻は、社会福祉に関する国家の関与・介入を否定していません。
次の記事
次は、都市化の理論です。
人が都市に住み始めると、コミュニティはどうなる?!


コメント