福祉避難所とは何か、要配慮者と避難行動要支援者の違いは何か、理解しましょう。
福祉避難所の歴史
1995年の阪神大震災では、障害者や高齢者に配慮した避難所がなく、多くの福祉施設がそのための避難所となりました。
これが福祉避難所の原型となり、福祉避難所という言葉が用いられるようになりました。
このときには実際の震災ではなく「震災関連死」が多かったことをキッカケに、重度の障害者や高齢者などの「災害弱者=災害時要援護者」という用語も用いられるようになっていきます。
震災関連死というのは、震災によって介護が必要な人に支援が届かず亡くなるとかだね。
「災害時要援護者」という用語は、2013年の災害対策基本法の改正から「要配慮者」「避難行動要支援者」と呼ばれるようになりました。
高齢者、障害者、乳幼児その他の特に配慮を要する人を「要配慮者」と呼び、そのうち災害が発生した時に自ら避難することが困難な人を「避難行動要支援者」ということになりました。
福祉避難所が初めて開設されたのは2004年の中越地震でした。
しかし、このときはほとんど機能せず、避難所に入れない人が車中で暮らしエコノミークラス症候群になるなどの問題が発生したようです。
2011年の東日本大震災や2016年の熊本地震では自治体と福祉避難所の協定を結んでいる福祉施設だけでなく、無事だった事業所の多くが福祉避難所になったそうです。
協定を結んでいても福祉避難所として機能しなかった事例も多く、現実に災害が起これば職員も被災していて人手が足りず福祉避難所を開設できないことも多いようですから。
災害対策基本法
災害対策基本法には、福祉避難所が以下のように規定されています。
「主として高齢者、障害者、乳幼児その他の特に配慮を要する者(要配慮者)を滞在させることが想定されるもの」
つまり一般の人たちは対象として想定されていません。
災害対策基本法は、福祉避難所以外の内容も国家試験に出題されますので、以下の記事も参照しておいてください。
「福祉避難所の確保・運営ガイドライン」(内閣府)
内閣府の「福祉避難所の確保・運営ガイドライン」によると、以下のように規定されています。
福祉避難所とは
「主として高齢者、障害者、乳幼児その他の特に配慮を要する者(以下この号において「要配慮者」という。)を滞在させることが想定されるものにあつては、要配慮者の円滑な利用の確保、要配慮者が相談し、又は助言その他の支援を受けることができる体制の整備その他の要配慮者の良好な生活環境の確保に資する事項について内閣府令で定める基準に適合するものであること。」(災害対策基本法施行令第20条の6第5号
・高齢者、障害者、乳幼児その他の特に配慮を要する者(以下この条において「要配慮者」という。)の円滑な利用を確保するための措置が講じられていること。
・災害が発生した場合において要配慮者が相談し、又は助言その他の支援を受けることができる体制が整備されること。
・災害が発生した場合において主として要配慮者を滞在させるために必要な居室が可能な限り確保されること。
福祉避難所の利用対象
身体等の状況が特別養護老人ホーム又は老人短期入所施設等へ入所するには至らない程度の者であって、避難所での生活において、特別な配慮を要する者であること。具体的には、高齢者、障害者の他、妊産婦、乳幼児、病弱者等避難所での生活に支障をきたすため、避難所生活において何らかの特別な配慮を必要とする者、及びその家族まで含めて差し支えない。なお、特別養護老人ホーム又は老人短期入所施設等の入所対象者はそれぞれ緊急入所等を含め、当該施設で適切に対応されるべきであるため、原則として福祉避難所の対象者とはしていない。(出典:災害救助法 運用と実務 第一法規 平成26年 304頁)上記を原則としつつも、地域や被災者の被災状況に応じて、さらに避難生活中の状態等の変化に留意し、必要に応じて適切に対処する必要がある。なお、災害時における要配慮者を含む被災者の避難生活場所については、在宅での避難生活、一般の避難所での生活、福祉避難所での生活、緊急的に入所(緊急入所)等が考えられる。
つまり、福祉避難所は要配慮者が利用するもので、一般の被災者の利用は想定されていません。
ただし、要配慮者の家族の利用は想定されています。
災害時派遣チーム
災害時に一般避難所や福祉避難所に派遣される医療福祉系チームには以下のような種類があります。
DCAT(Disaster Care Assistance Team):災害派遣介護チーム
DMAT(Disaster Medical Assistance Team):災害派遣医療チーム
DPAT(Disaster Psychiatric Assistance Team):災害派遣精神医療チーム
ディーワット、ディーキャット、ディーマット、ディーパットと読んでね。
DWATとDCATは福祉チーム、DMATとDPATは医療チームだね。
DMATはよく知られてるけど、その福祉版としてできたのがDWATだよ。
DWAT(Disaster Welfare Assistance Team)DCAT(Disaster Care Assistance Team)
DWATは、災害時に被災地域に入り、一般避難所や福祉避難所で要配慮者等に対し福祉支援を行う専門職チームです。
派遣されたチームは、避難者等の福祉ニーズの把握やスクリーニング、福祉避難所への誘導、日常生活上の支援、各種相談対応、環境整備などを実施します。
DCATは、DWATとほぼ同じ意味で、都道府県ごとに呼び方が違うだけです。
「災害時の福祉支援体制の整備に向けたガイドライン」によると以下のように規定されています。
各都道府県は、一般避難所で災害時要配慮者に対する福祉支援を行う災害派遣福祉チームを組成するとともに、一般避難所へこれを派遣すること等により、必要な支援体制を確保することを目的として、都道府県、社会福祉協議会や社会福祉施設等関係団体などの官民協働による「災害福祉支援ネットワーク」を構築するものとする。
なお、ネットワークは、都道府県を中心に、政令指定都市、中核市を含め、管内市区町村の協力を得て、可能な限り一元的な都道府県内のネットワークの構築を図るものとする。
熊本の震災の時は、他府県からのDWATが集まったね。
DMAT(Disaster Medical Assistance Team)
DMATは、「災害急性期に活動できる機動性を持ったトレーニングを受けた医療チーム」と定義されており、医師、看護師、業務調整員(医師・看護師以外の医療職及び事務職員)で構成されます。
DMATに登録している医療従事者は、DMATの研修を受けて資格を保有しており、普段は「DMAT指定医療機関」で医師や看護師として働いています。大規模な災害時や該当している自治体での災害や事故の際にDMATとして招集され、現場での活動をします。
厚生労働省の「日本DMAT」と、都道府県ごとに発足している「都道府県DMAT」があります。
DPAT(Disaster Psychiatric Assistance Team)
DPATは、災害時に被災地域に入り、精神科医療および精神保健活動の支援を行う専門的なチームで、都道府県や政令指定都市によって組織される専門的な研修を受けたチームです。
DMATは医療全般、DPATは精神医療に特化したチームだよ。
過去問
第31回 問題25
「福祉避難所の確保・運営ガイドライン」(内閣府)に基づく、災害時の福祉ニーズへの対応に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 福祉避難所に避難してきた「要配慮者」は、原則として病院に移送する。
2 福祉避難所には、ボランティアを配置せず、専門的人材を配置することとされている。
3 「要配慮者」への在宅福祉サービスの提供は、福祉避難所への避難中は停止する。
4 福祉避難所は、一般の避難所と同じ敷地内に開設することが必要とされている。
5 福祉避難所での速やかな対応を実現するために、平常時から「要配慮者」に関する情報の管理や共有を整備しておく。
(注)「要配慮者」とは、高齢者、障害者、乳幼児その他の特に配慮を要する者をいう。
1 福祉避難所に避難してきた「要配慮者」は、原則として病院に移送する。
間違いです。
「要配慮者を滞在させるために必要な居室が可能な限り確保されていること」とされています。
2 福祉避難所には、ボランティアを配置せず、専門的人材を配置することとされている。
間違いです。
市町村に対して、「ボランティアの受け入れ方針について検討しておく」ことを求めています。
3 「要配慮者」への在宅福祉サービスの提供は、福祉避難所への避難中は停止する。
間違いです。
「要配慮者に対して必要な福祉サービスを提供する」とされています。
4 福祉避難所は、一般の避難所と同じ敷地内に開設することが必要とされている。
間違いです。
要配慮者が避難可能な施設等が福祉避難所になりますから、一般の避難所と同じ敷地内である必要はありません。
5 福祉避難所での速やかな対応を実現するために、平常時から「要配慮者」に関する情報の管理や共有を整備しておく。
これが正解です。
第29回 問題40
災害時における支援に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 災害救助法が適用される災害において被災し、当座の生活費を必要とする世帯に対しては、生活福祉資金の緊急小口資金の特例貸与が実施される。
2 災害ボランティアセンターは、災害救助法の規定により、社会福祉協議会が設置することとされている。
3 共同募金会の呼び掛けにより集められた災害義援金は、全て被災自治体の復興事業に充てられている。
4 生活支援相談員は、被災者生活再建支援法の規定により配置されることとされている。
5 福祉避難所は、要配慮者とその家族・支援者だけでなく一般の被災者も同時に受け入れることとされている。
1 災害救助法が適用される災害において被災し、当座の生活費を必要とする世帯に対しては、生活福祉資金の緊急小口資金の特例貸与が実施される。
これが正解です。
緊急小口資金は、通常低所得世帯に当座の生活費の貸付を行うものですが、大規模災害の時は被災世帯もその貸付対象になるという特例措置が講じられます。
2 災害ボランティアセンターは、災害救助法の規定により、社会福祉協議会が設置することとされている。
災害救助法には災害ボランティアセンターに関する規定はありません。
災害ボランティアセンターを設置しているのは、自治体やボランティア、NGOや社会福祉協議会などさまざまです。
3 共同募金会の呼び掛けにより集められた災害義援金は、全て被災自治体の復興事業に充てられている。
災害義援金は、被災地の復興事業ではなく、被災者に配布されます。
4 生活支援相談員は、被災者生活再建支援法の規定により配置されることとされている。
このような規定はありません。
生活支援相談員は、市町村社会福祉協議会により配置されています。
5 福祉避難所は、要配慮者とその家族・支援者だけでなく一般の被災者も同時に受け入れることとされている。
一般の被災者は、福祉避難所の利用対象ではありません。
ガイドラインでは「福祉避難所の利用対象として要配慮者の家族まで含めて差し支えない」とされています。
次の記事
次は、ひきこもりやニートなどの社会的孤立の問題を見ていきます。
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