用語の定義
「医療観察制度」は、2003年成立の「医療観察法」に基づき心神喪失又は心神耗弱の状態で重大な他害行為を行った人の社会復帰を促進する制度です。
医療観察法は、「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」という長い名称の法律だよ。
重大な他害行為とは以下の6種類です。
重大な他害行為である「放火」は被害が大きいので「殺人」よりも罪が重くなる場合が多いよ。
心神喪失の状態で仮に殺人を犯しても、無罪だよ。
医療観察の流れ
②警察
③検察庁
④「不起訴処分」、「無罪」など
⑤地方裁判所「審判」
⑥処遇(入院、通院、不処遇)決定
⑦処遇終了、社会復帰
殺人などの重大な他害行為を行った人は、警察から検察官送致され起訴されますが、心神喪失等で不起訴になったり裁判所で無罪になったりすると、検察官は地方裁判所に入院や通院の申立てを行います。
その決定が降りるまで、「鑑定入院」という入院形態で原則2か月(最長3か月)、鑑定入院医療機関で入院します。鑑定入院中には、検査や診断、精神科治療もなされます。この間、保護観察所の社会復帰調整官は、生活環境の調査を行います。
地方裁判所で入院か通院か不処遇かの審判があります。
・裁判官1名
・精神保健審判員1名
審判は裁判官1名と精神保健審判員1名の合議体で行われ、精神保健参与員の意見が求められます。
精神保健参与員:審判において精神保健福祉の視点から意見を述べる精神保健福祉士等。一定の要件を満たし「精神保健判定医等養成研修」を修了していることが必要。厚生労働大臣が作成した名簿の中から、各事件毎に裁判所が任命。
入院決定を受けた人については厚生労働省所管の指定入院医療機関による専門的な医療が提供され、その間、保護観察所(社会復帰調整官)はその人について「退院後の生活環境の調整」を行います。
また、通院決定を受けた人及び退院を許可された人については原則として3年間(延長含め最長5年間)、保護観察所による「精神保健観察」に付され、厚生労働省所管の指定通院医療機関による医療が提供されます。
指定入院医療機関:1年半を標準とするが上限なし、厚生労働大臣が指定
指定通院医療機関:原則3年(最長で2年の延長)、厚生労働大臣が指定
精神保健観察の指定医療機関を所管するのは法務省ではなく厚生労働省だよ。更生保護の管轄は法務省だけど混同しないように。
まとめ
この医療観察制度ができるまで、医療観察制度の対象者は「措置入院制度」で対応されていました。
つまり一般の精神障害者に対する強制的な入院制度によって刑法犯も処遇されていたのです。
医療観察制度ができて社会復帰調整官がコーディネーターとして働くことで社会復帰までの道筋がつきやすくなりました。
医療観察制度に出てくる以下の重要な3つの役職は覚えておきましょう。
精神保健審判員:審判において裁判官と合議して医学的見地から提言する精神保健判定医。
精神保健参与員:審判において精神保健福祉の視点から意見を述べる精神保健福祉士等。
保護観察は「更生保護法」、医療観察は「医療観察法」が根拠法です。
保護観察の担い手である保護観察官も、医療観察の担い手である社会復帰調整官も、保護観察所に配置されることを覚えておきましょう。
過去問
第31回 問題150
社会復帰調整官に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 社会復帰調整官は、地方検察庁に配属されている。
2 社会復帰調整官は、医療刑務所入所中の者の生活環境の調整を行う。
3 社会復帰調整官が、「医療観察法」の審判で処遇を決定する。
4 社会復帰調整官は、精神保健観察のケア会議に支援対象者の参加を求めることができる。
5 社会復帰調整官が、指定通院医療機関の指定を行う。
1 社会復帰調整官は、地方検察庁に配属されている。
地方検察庁ではなく、保護観察所に配置される国家公務員です。
2 社会復帰調整官は、医療刑務所入所中の者の生活環境の調整を行う。
医療刑務所入所中の者ではなく、指定入院医療機関に入院中の対象者の退院後の生活環境の調整を行います。
3 社会復帰調整官が、「医療観察法」の審判で処遇を決定する。
医療観察法の審判で処遇を決定するのは地方裁判所の裁判官1名と精神保健審判員1名の合議体です。
4 社会復帰調整官は、精神保健観察のケア会議に支援対象者の参加を求めることができる。
これが正解です。
5 社会復帰調整官が、指定通院医療機関の指定を行う。
指定通院医療機関の指定は厚生労働大臣が行います。
第33回 問題149
「医療観察法」が定める医療観察制度に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
1 精神保健観察は、刑法上の全ての犯罪行為に対して適用される制度である。
2 医療観察制度における医療は、法務大臣が指定する指定入院医療機関又は指定通院医療機関で行われる。
3 医療観察制度による処遇に携わる者は、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者が円滑に社会復帰をすることができるように努めなければならない。
4 精神保健観察に付された者には、保護司によって「守るべき事項」が定められる。
5 精神保健観察に付される期間は、通院決定又は退院許可決定があった日から最長10年まで延長できる。
(注)「医療観察法」とは、「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及
び観察等に関する法律」のことである。
1 精神保健観察は、刑法上の全ての犯罪行為に対して適用される制度である。
間違いです。医療観察の対象は、心神喪失等の状態で殺人や放火など重大な他害行為を行った者です。精神保健観察は、このような対象者のうち入院せず通院処遇を受けた者が対象です。
2 医療観察制度における医療は、法務大臣が指定する指定入院医療機関又は指定通院医療機関で行われる。
間違いです。法務大臣ではなく厚生労働大臣です。
3 医療観察制度による処遇に携わる者は、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者が円滑に社会復帰をすることができるように努めなければならない。
これが正解です。
4 精神保健観察に付された者には、保護司によって「守るべき事項」が定められる。
間違いです。「守るべき事項」は医療観察法に規定されています。
5 精神保健観察に付される期間は、通院決定又は退院許可決定があった日から最長10年まで延長できる。
間違いです。ガイドラインでは3年と定められており、最長で2年の延長ができます。
つまり最長で5年となります。
第32回 問題62
医療観察制度に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 対象者は、起訴された者に限られており、起訴されていない者は含まれない。
2 保護観察所には、対象者の社会復帰を支援する、精神保健福祉士等の専門家である社会復帰調整官が配置されている。
3 「医療観察法」の目的は、精神障害者の医療及び保護を行い、その自立と社会経済活動への参加の促進のために必要な援助を行い、精神障害者の福祉の増進及び国民の精神保健の向上を図ることである。
4 入院による医療の決定を受けた者に対しては、指定入院医療機関で、専門的な医療の提供が行われるとともに、保健所による退院後の生活環境の調整が実施される。
5 通院による医療の決定を受けた者及び退院を許可された者は、処遇の実施計画に基づいて、期間の定めなく、地域の指定医療機関による医療を受ける。(注)「医療観察法」とは、「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」のことである。
1 対象者は、起訴された者に限られており、起訴されていない者は含まれない。
間違いです。心神喪失等で不起訴になった者も含まれます。
2 保護観察所には、対象者の社会復帰を支援する、精神保健福祉士等の専門家である社会復帰調整官が配置されている。
これが正解です。
3 「医療観察法」の目的は、精神障害者の医療及び保護を行い、その自立と社会経済活動への参加の促進のために必要な援助を行い、精神障害者の福祉の増進及び国民の精神保健の向上を図ることである。
間違いです。これは「精神保健福祉法」の内容です。
4 入院による医療の決定を受けた者に対しては、指定入院医療機関で、専門的な医療の提供が行われるとともに、保健所による退院後の生活環境の調整が実施される。
間違いです。生活環境の調整を行うのは保護観察所の社会復帰調整官です。
5 通院による医療の決定を受けた者及び退院を許可された者は、処遇の実施計画に基づいて、期間の定めなく、地域の指定医療機関による医療を受ける。
間違いです。最長5年という期間の定めがあります。
精神保健福祉士 第21回 問題68
次のうち、「医療観察法」に規定された重大な他害行為として、正しいものを2つ選びなさい。
1 危険運転致死傷
2 強盗
3 強制性交等
4 略取・誘拐
5 恐喝
(注)「医療観察法」とは、「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」のことである。
選択肢2と3が正解です。
殺人、放火、強盗、傷害(致死)、強制性交、強制わいせつ、の6種類でした。
精神保健福祉士 第22回 問題67
「医療観察法」における鑑定入院に関する次の記述のうち、正しいものを2つ選びなさい。
1 医学的観点から「医療観察法」に基づく入院による医療の必要性について意見をまとめる。
2 検査・診断のみならず、精神科治療も行われる。
3 「精神保健福祉法」で規定された指定病院において実施される。
4 入院期間は、原則 4 週間が限度とされている。
5 鑑定は、精神保健審判員が実施する。
(注)1 「医療観察法」とは、「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」のことである。
2 「精神保健福祉法」とは、「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」のことである。
1 医学的観点から「医療観察法」に基づく入院による医療の必要性について意見をまとめる。
正しいです。
2 検査・診断のみならず、精神科治療も行われる。
正しいです。精神科治療を行うことで、通院治療が可能であるか入院治療が必要であるか等の判断が行われます。
3 「精神保健福祉法」で規定された指定病院において実施される。
間違いです。鑑定入院は精神保健福祉法ではなく「医療観察法」で規定されています。
4 入院期間は、原則4週間が限度とされている。
間違いです。鑑定入院期間は原則として2か月以内で必要な場合は1か月の延長が可能です。
5 鑑定は、精神保健審判員が実施する。
間違いです。鑑定は鑑定入院した対象者の鑑定を行うよう裁判所に命令された医師が行います。
この鑑定医の条件は、精神保健判定医または同等以上の学識経験を有する医師とされています。
第35回 問題150
「医療観察法」が定める医療観察制度に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 対象となる行為は、殺人、放火、強盗、強制わいせつ、強制性交等及び傷害等に当たる行為である。
2 社会復帰調整官は、各地方裁判所に配属されている。
3 入院決定を受けた者に対して医療を実施する指定入院医療機関は、都道府県知事が指定した病院である。
4 通院決定された場合、指定通院医療機関による医療を受けることができる期間の上限は10年である。
5 地域社会における精神保健観察は、保護観察官と保護司が協働して実施すると規定されている。
(注)「医療観察法」とは、「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察などに関する法律」のことである。
1 対象となる行為は、殺人、放火、強盗、強制わいせつ、強制性交等及び傷害等に当たる行為である。
これが正解です。
2 社会復帰調整官は、各地方裁判所に配属されている。
誤りです。社会復帰調整官は保護観察所に配属されます。
3 入院決定を受けた者に対して医療を実施する指定入院医療機関は、都道府県知事が指定した病院である。
誤りです。指定入院医療機関は、都道府県知事ではなく厚生労働大臣が指定します。
4 通院決定された場合、指定通院医療機関による医療を受けることができる期間の上限は10年である。
誤りです。指定通院医療機関は、原則3年、最長5年です。
5 地域社会における精神保健観察は、保護観察官と保護司が協働して実施すると規定されている。
誤りです。精神保健観察は、社会復帰調整官が実施します。
次の記事
次は、医療福祉系専門職の国家資格を見ていきましょう。
コメント