貧困問題を考察してきた人たちを紹介します。
それぞれ関連させて覚えましょう。
ブース
会社経営をしていたブース(Booth,C.)は裕福だったので、そのお金を使って個人でロンドン市内の貧困調査を実施します。
その結果なんと30%もの人が貧困に苦しんでいることがわかり、その原因は、
1.雇用問題(低賃金など)
2.環境要因(病気や家族要因)
3.生活習慣(浪費やアルコール中毒)
と、貧困原因の多くは、個人に原因があるのではなく、社会にあることがわかりました。
この結果は、当時、貧困の原因は個人にあると考えられていたことと真逆の結果であって、驚くべきものでした。
ラウントリー
ブースに続いて、ラウントリー(Rowntree,B.S.)はイギリスのヨーク市で貧困調査を行いました。
ラウントリーもチョコレート会社の御曹司だったそうで、お金には余裕があったようです。
調査方法としては全数調査で、マーケットバスケット方式によるものでした。
ラウントリーは調査結果から、第一次貧困と第二次貧困という貧困線を定義しました。
第一次貧困の原因として、賃金稼得者の死亡や災害・疾病・老齢による労働不能、失業、不規則就業、大家族、低賃金が挙げられています。
第二次貧困の原因として、飲酒や賭博、無知による浪費や支出があり、第一次貧困状態が引き起こしていることも指摘されています。
また、人は人生で3回貧困になるというライフサイクルと貧困の関係を明らかにしました。
「低年齢期」「子育て期」「高齢期」の3回です。
幼少期は貧困の連鎖で、親の経済力に左右され、自分の子どもが生まれると出費が増え、高齢期になると収入が減って貧困に陥るという理由からです。
このようなラウントリーの貧困調査は後のベヴァリッジ報告に影響を与えています。
タウンゼント
ブースやラウントリーの貧困調査によって「絶対的貧困」が明らかになりましたが、タウンゼント(Townsend,P.)は「相対的貧困」「相対的剥奪」を唱えました。
ラウントリーは絶対的貧困、タウンゼントは相対的貧困だね。
現在は相対的貧困率(一人当たりの可処分所得の半分に満たない人の割合)が用いられてるね。
1960年代にタウンゼントとエイベル-スミスは豊かな世界に貧困があることを指摘し、「貧困の再発見」の契機となりました。
相対的剥奪とは人々が社会で通常手に入れられる衣食住や仕事などの物的資源が不足していたり、一般に経験されている教育やレクリエーション、社会活動に参加できないような状態のことです。
一般的に見て普通享受できるはずの物や事が得られない状態、つまり例えば、お金がないために我慢しなければならないこと、自分が回りと比べてできないことなどを「相対的剥奪」としたのです。
そしてこの相対的剥奪を指標として相対的貧困を論じています。
ルイス
ルイス(Lewis,O.)のキーワードは「貧困の文化」です。
人類学者の彼は「貧困者が貧困生活を次の世代に受け継ぐような生活習慣や世界観を伝承している」と考え、これを「貧困の文化」と表現しました。
今でいう「貧困の連鎖」だね。
ポーガム
ポーガム(Paugam,S.)は「社会的降格」という概念を用いて現代社会の貧困の特徴を整理した人です。
「社会的降格」の概念は、貧困者が自らに対する否定的な認識をもっていることに関係しています。
「社会的降格」のプロセスとして、①脆弱になる、②依存する、③社会的絆が断絶する、の3点を挙げています
スピッカー
スピッカー(Spicker,P.)のキーワードは「貧困の家族的類似」です。
以下にその図を示します。
この図は、世界中の貧困概念を集めたときに、類似するものを分類していくと「物質的状態」、「経済的境遇」、「社会的地位」の3群に整理できることを示したものです。
さらにそれぞれの中心には「容認できない困難」があると考えました。
リスター
リスター(Lister,R.)は貧困の車輪モデルを提唱しています。
「車輪モデル」は貧困を「物質的欠乏(経済的貧困)」と「非物質的側面(社会関係的・文化象徴的側面)」の両者の連動から把握されることを提唱しました。
スピッカーの「貧困の家族的類似」では物質的状態は1分類にすぎなかったのですが、スピッカーはやはり貧困の中心にあるのは「物質的欠乏」であるとして車輪モデルを提唱しています。
その連動を表現するために、「物質的欠乏」を内輪、「非物質的側面」を外輪という車輪モデルを提唱したのです。
非物質的側面とは、貧困者への差別や偏見、社会的排除、スティグマなどが該当します。
ピケティ
ピケティ(Piketty,T.)は、世界中で所得と富の分配の不平等化が進んでおり、長期的に見ると資本収益率が経済成長率を超えるという傾向があることを示しました。
そしてこれが資産の分布が偏り資産格差や経済格差を生む原因であり、その是正方法として累進課税の強化を主張しました。
つまり、資産格差は貧困の世代間連鎖をもたらすので、政府による富の再分配を強調しています。
トマ・ピケティの著書「21世紀の資本」は、2014年に発売されて話題になったね。世界中で広がっている経済格差が明らかになってみんなビックリしたよ。格差を表す指標である「ジニ係数」も思い出して。
セン
セン(Sen,A.)のキーワードは「ケイパビリティアプローチ」です。
ケイパビリティ(潜在能力)とは、物質的豊かさ(財)を使いこなす能力。
ケイパビリティ・アプローチとは、物質的な豊かさ(財)に恵まれていても、それらを使えないこと(ケイパビリティの欠如している状態)が貧困という捉え方です。
例えば、自転車を持っていても、それを乗りこなす能力が無ければ意味がないよね。物質(財)があってもそれを使いこなせなければ貧困であるということだよ。
過去問
第30回 問題28
貧困に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 ポーガム(Paugam,S.)は、車輪になぞらえて、経済的貧困と関係的・象徴的側面の関係を論じた。
2 タウンゼント(Townsend,P.)は、相対的剥奪指標を用いて相対的貧困を分析した。
3 ピケティ(Piketty,T.)は、資産格差は貧困の世代間連鎖をもたらさないと論じた。
4 ラウントリー(Rowntree,B.S)は、ロンドン市民の貧困調査を通じて「見えない貧困」を発見した。
5 リスター(Lister,R.)は、社会的降格という概念を通して、現代の貧困の特徴を論じた。
1 ポーガム(Paugam,S.)は、車輪になぞらえて、経済的貧困と関係的・象徴的側面の関係を論じた。
ポーガムは「社会的降格」という概念を用いて現代社会の貧困の特徴を整理した人です。
車輪とくればリスターですので、この選択肢は間違いです。
2 タウンゼント(Townsend,P.)は、相対的剥奪指標を用いて相対的貧困を分析した。
これが正解です。
「相対的剥奪」とくればタウンゼントです。
3 ピケティ(Piketty,T.)は、資産格差は貧困の世代間連鎖をもたらさないと論じた。
間違いです。
ピケティは、世界中で所得と富の分配の不平等化が進んでおり、長期的に見ると資本収益率が経済成長率を超えるという傾向があることを示しました。そしてこれが資産の分布が偏り、資産格差や経済格差を生む原因であり、その是正方法として累進課税の強化を主張しました。
つまり、資産格差は貧困の世代間連鎖をもたらすので、政府による富の再分配を強調しています。
4 ラウントリー(Rowntree,B.S)は、ロンドン市民の貧困調査を通じて「見えない貧困」を発見した。
ロンドンの貧困調査を行ったのはブースですので間違いです。
ロンブーで覚えましょう。
5 リスター(Lister,R.)は、社会的降格という概念を通して、現代の貧困の特徴を論じた。
「社会的降格」はポーガムですので間違いです。
第27回 問題22
貧困及びニードのとらえ方に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
1 タウンゼント(Townsend,P.)は、貧困者には共通した「貧困の文化(culture of poverty)」があることを明らかにした。
2 リスター(Lister,R.)は、「ノーマティブ・ニード」に加えて、「フェルト・ニード」を提案した。
3 ルイス(Lewis,O.)は「相対的剥奪」の概念を精緻化することで、相対的貧困を論じた。
4 ブラッドショー(Bradshaw,J.)は、絶対的貧困・相対的貧困の二分法による論争に終止符を打つことを目指した。
5 スピッカー(Spicker,P.)は、「貧困」の多様な意味を、「物質的状態」、「経済的境遇」及び「社会的地位」の三つの群に整理した。
1 タウンゼント(Townsend,P.)は、貧困者には共通した「貧困の文化(culture of poverty)」があることを明らかにした。
「貧困の文化」とくればオスカー・ルイスですので間違いです。
2 リスター(Lister,R.)は、「ノーマティブ・ニード」に加えて、「フェルト・ニード」を提案した。
これはブラッドショーのニード論ですのでリスターではありません。
3 ルイス(Lewis,O.)は「相対的剥奪」の概念を精緻化することで、相対的貧困を論じた。
「相対的貧困」はタウンゼントですので間違いです。
4 ブラッドショー(Bradshaw,J.)は、絶対的貧困・相対的貧困の二分法による論争に終止符を打つことを目指した。
間違いです。
5 スピッカー(Spicker,P.)は、「貧困」の多様な意味を、「物質的状態」、「経済的境遇」及び「社会的地位」の三つの群に整理した。
これが正解です。
第29回 問題25
ラウントリー(Rowntree,B.S)が実施したヨーク調査に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
1 貧困は怠惰や努力不足の結果であるため、自己責任として放置すべきであるという貧困観を補強する資料となった。
2 貧困の分析に相対的剥奪の概念を用いた。
3 貧困により社会に参加できなくなる過程を社会的排除として概念化した。
4 結婚前の20歳代前半層に貧困が集中することを発見した。
5 最低生活費を基準として貧困を科学的に計測する方法を生み出した。
1 貧困は怠惰や努力不足の結果であるため、自己責任として放置すべきであるという貧困観を補強する資料となった。
間違いです。
ラウントリーの貧困調査で、貧困の原因は個人の努力不足ではなく社会環境にあることがわかりました。
2 貧困の分析に相対的剥奪の概念を用いた。
「相対的剥奪」はタウンゼントですので間違いです。
3 貧困により社会に参加できなくなる過程を社会的排除として概念化した。
これはラウントリーではなく、概念化したのはEUですので間違いです。
4 結婚前の20歳代前半層に貧困が集中することを発見した。
ラウントリーの調査で人生において「低年齢期」「子育て期」「高齢期」の3回貧困になることがわかりました。
結婚前の20代前半ではありません。
5 最低生活費を基準として貧困を科学的に計測する方法を生み出した。
これが正解です。
マーケットバスケット方式を用いた貧困線の算出など、科学的に計測する方法を生み出しました。
第29回 問題22
セン(Sen,A.)が提唱した「潜在能力(capabilities)」に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
1 潜在能力とは、個人の遺伝的素質のことをいう。
2 各人の資源の保有量が同じであれば、潜在能力は等しくなる。
3 困窮した生活を強いられていてもその人がその境遇に納得しているかどうかという心理的尺度が、最終的な潜在能力の評価の基準となる。
4 豊かな社会の中で貧しいことは、潜在能力の障害となる。
5 「恥をかかずに人前に出ることができる」といった社会的達成は、潜在能力の機能に含まれない。
1 潜在能力とは、個人の遺伝的素質のことをいう。
誤りです。潜在能力とは、資源がもつ特性が活用された状態に変換する能力のことで、遺伝的素質のことではありません。
2 各人の資源の保有量が同じであれば、潜在能力は等しくなる。
資源の保有量が同じでも潜在能力は等しくなりません。例えば一律にスマホを供給しても、その機能を使いこなせる人、使いこなせない人がいるので、潜在能力(財の特性と機能に変換する能力)は等しくなりませんね。
3 困窮した生活を強いられていてもその人がその境遇に納得しているかどうかという心理的尺度が、最終的な潜在能力の評価の基準となる。
誤りです。困窮した生活を強いられている人がその境遇に納得しているのは、その範囲内で達成できる幸福に限定しているからで、そのような場合、その境遇に納得しているかどうかの心理的尺度が最終的な潜在能力の評価の基準とはなりません。
4 豊かな社会の中で貧しいことは、潜在能力の障害となる。
これが正解です。
豊かな社会の中で貧しいことは、資源のもつ特性を活用できないことを意味するので、潜在能力の障害となります。例えば充実した医療があるにもかかわらず、貧しいために受診できないとか。
5 「恥をかかずに人前に出ることができる」といった社会的達成は、潜在能力の機能に含まれない。
誤りです。「恥をかかずに人前に出ることができる」といった社会的達成は潜在能力の機能に含まれます。
第34回 問題26
イギリスにおける貧困に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。1 ラウントリー(Rowntree, B.)は、ロンドンで貧困調査を行い、貧困の主たる原因が飲酒や浪費のような個人的習慣にあると指摘した。2 ベヴァリッジ(Beveridge, W.)による『社会保険および関連サービス』(「ベヴァリッジ報告」)は、「窮乏」(want)に対する社会保障の手段として、公的扶助(国民扶助)が最適であり、社会保険は不要であるとした。3 エイベル‒スミス(Abel-Smith, B.)とタウンゼント(Townsend, P.)は、イギリスの貧困世帯が増加していることを1960年代に指摘し、それが貧困の再発見の契機となった。4 タウンゼント(Townsend, P.)は、等価可処分所得の中央値の50%を下回る所得しか得ていない者を相対的剥奪の状態にある者とし、イギリスに多数存在すると指摘した。5 サッチャー(Thatcher, M.)が率いた保守党政権は、貧困や社会的排除への対策として、従来の社会民主主義とも新自由主義とも異なる「第三の道」の考え方に立つ政策を推進した。
1 ラウントリー(Rowntree, B.)は、ロンドンで貧困調査を行い、貧困の主たる原因が飲酒や浪費のような個人的習慣にあると指摘した。
誤りです。ロンドンで貧困調査を行ったのはブースです。
ロンブーだね。ラウントリーの貧困調査はヨーク市だよ。
2 ベヴァリッジ(Beveridge, W.)による『社会保険および関連サービス』(「ベヴァリッジ報告」)は、「窮乏」(want)に対する社会保障の手段として、公的扶助(国民扶助)が最適であり、社会保険は不要であるとした。
ベヴァリッジ報告では、窮乏、疾病、無知、不潔、怠惰の5大巨悪に対して、国家による社会保険制度を整備し、これで不十分な部分は公的扶助を用いることとしています。
3 エイベル‒スミス(Abel-Smith, B.)とタウンゼント(Townsend, P.)は、イギリスの貧困世帯が増加していることを1960年代に指摘し、それが貧困の再発見の契機となった。
正しいです。「貧困の再発見」といえばタウンゼントとスミスです。
4 タウンゼント(Townsend, P.)は、等価可処分所得の中央値の50%を下回る所得しか得ていない者を相対的剥奪の状態にある者とし、イギリスに多数存在すると指摘した。
誤りです。タウンゼントの相対的剥奪は、その社会で慣習とされている生活様式に沿った生活ができない状態の事です。等価可処分所得の中央値の50%を下回る所得しか得ていない者の割合は相対的貧困率と呼び、相対的剥奪とは異なります。
5 サッチャー(Thatcher, M.)が率いた保守党政権は、貧困や社会的排除への対策として、従来の社会民主主義とも新自由主義とも異なる「第三の道」の考え方に立つ政策を推進した。
誤りです。「第三の道」を推進したのはサッチャー政権ではなく、その後のブレア政権です。
次の記事
次は、慈善組織協会COSとセツルメント運動を取り上げます。
よく耳にするセツルメントってなに?って思いながら読みましょう。
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