療育手帳には法的根拠がないという驚きの事実、知っていましたか?
身体障害者手帳とは大違いです。
それでも持つメリットは計り知れない・・・。
障害者手帳を持っていれば、所得税や住民税の減免、JRや高速道路などの公共料金の割引、医療費やリフォーム費用の助成など様々なメリットがあります。
そんな手帳制度について学んでいきましょう。
障害者の定義
障害者総合支援法には障害者を以下のように規定しています。
「障害者」とは、身体障害者福祉法第四条に規定する身体障害者、知的障害者福祉法にいう知的障害者のうち十八歳以上である者及び精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第五条に規定する精神障害者(発達障害者を含み、知的障害者を除く)のうち十八歳以上である者並びに治療方法が確立していない疾病その他の特殊の疾病であって政令で定めるものによる障害の程度が厚生労働大臣が定める程度である者であって十八歳以上であるものをいう。
ということで、障害者は18歳以上で定義されています。
児童福祉法で児童は18歳未満と定義されていましたね。
そして各障害の定義は以下のとおりです。
障害 | 定義 | 根拠法 |
---|---|---|
身体障害者 | 身体障害者手帳の交付を受けた者 | 身体障害者福祉法 |
知的障害者 | 定義なし | – |
精神障害者 | 統合失調症、精神作用物質による急性中毒又はその依存症、知的障害その他の精神疾患を有する者 | 精神保健福祉法 |
発達障害者 | 発達障害がある者であって発達障害及び社会的障壁により 日常生活又は社会生活に制限を受ける者 | 発達障害者支援法 |
このように障害者の定義については、手帳の所持として定義されているのは身体障害者のみで、知的障害者にあっては定義すらありません。
そもそも知的障害の判定は、脳のこの部分に障害があるからとか明確な診断基準がないよ。ダウン症なら21番目の染色体が1本多いという明確な基準があるけどね。
精神障害者と発達障害者の定義も国家試験に出題されますので覚えておいてください。
精神保健福祉法における精神障害者の定義には知的障害が含まれていることに注意してください。だから障害者総合支援法での障害者の定義には、わざわざ「精神障害者(発達障害者を含み、知的障害者を除く)」と規定されています。
一般的には精神障害と知的障害は別物で、精神障害には発達障害が含まれます。
障害者手帳
障害者が所持する手帳は3種類あり、まとめて障害者手帳と呼んでいます。
・療育手帳(知的障害者)
・精神保健福祉手帳(精神障害者)
身体障害者手帳
等級:1~6級
更新:不要
発行:都道府県知事、指定都市の市長、中核市の市長
審査:身体障害者更生相談所
等級には7級がありますが7級では手帳が交付されず、7級相当の身体障害が2つ以上重複すれば6級として手帳が交付されます。
なので「等級の範囲は?」という問いには1~6級と覚えてください。
1級が最も重く、両上肢の完全麻痺とか全盲とかです。
身体障害者の定義は身体障害者手帳が交付されている者です。
これは知的障害者や精神障害者とは違います。
知的障害と精神障害は法律では定義されておらず手帳の所持とイコールではありません。
手帳の判定は都道府県が設置する身体障害者更生相談所で行われます。
療育手帳
等級:A(重度)、B(その他)
更新:自治体により様々
交付:都道府県知事、指定都市の市長、児童相談所を設置する中核市の市長
審査:知的障害者更生相談所
知的障害者の手帳である療育手帳は都道府県によって「緑の手帳」とか「愛の手帳」とか別の名称で呼ばれていたりします。
この手帳は、身体や精神の手帳のように法律で規定されているものではなく、厚生労働省からの通知レベルで定められているものです。
療育手帳は、昭和48年の事務次官通知「療育手帳制度について」が根拠になっているよ。
等級は「重度」か「その他」かの2段階ですが、最重度、重度、中度、軽度と4段階になっているものもあります。
つまり都道府県によって呼び方も違えば等級も違うことがあるのです。
更新が必要かどうかの判定も都道府県独自の判断になっています。
法律で明確に規定されていないのですから都道府県によってさまざまで統一されていません。
知的障害自体の判定は、例えばCTスキャンで脳のこの部分に器質的障害があるから知的障害です等という判定ではなく、あくまで医師がその人の状態を診て知的障害と判断します。
知的障害は概ねIQ70未満とされていますが、IQだけで判定されるものでもありません。
このあたりは精神障害も同じで、ある程度の基準はありますが医師の診断に委ねられています。
つまり身体障害のように明確な診断基準がないのです。
ですので知的障害者は療育手帳を持っている人という定義もありません。
手帳の判定は都道府県が設置する知的障害者更生相談所で行われます。
①福祉事務所長へ申請
②児童相談所(障害児)、知的障害者更生相談所(障害者)で審査判定
③都道府県知事、指定都市の市長、児童相談所を設置する中核市の市長が交付
精神障害者保健福祉手帳
等級:1~3級
更新:2年ごと
交付:都道府県知事、指定都市の市長
審査:精神保健福祉センター
精神障害とは統合失調症、気分障害、てんかん、躁鬱病、高次脳機能障害など健常者がある日突然発症するような病名が並びます。
身体障害と違って治ることもあるので更新が必要なのです。
手帳所持のメリット
冒頭にも書きましたが、障害者手帳を持っていると様々な恩恵を受けられます。
・障害者雇用枠
企業や法人は障害者を一定割合で雇わなければならないという「法定雇用率制度」があり、障害者を決められた割合雇わないと罰金が科せられたり企業名を公表されたりします。
なので特にネームバリューのある大企業などは企業イメージを悪くしないよう障害者を雇いたいのです。
このときの障害者とは「手帳を持っている人」の数でカウントされますので、手帳を持っている人は障害者として雇われやすくなります。
・各種割引や助成
公共料金の割引制度があり、例えば身体障害者福祉手帳と療育手帳の所持者は鉄道運賃割引(JRと航空旅客運賃)として、第1級(本人と介護者が5割引き)と第2級(本人が5割引き)が設定されています。
その他、NHK受信料や上下水道料金、携帯電話料金なども割引されます。
・税制優遇
所得税や相続税、贈与税などが優遇され、自動車税なども減免されたりします。
まとめ
手帳については等級などの3種類の特徴を比較整理して覚えましょう。
種類 | 根拠法 | 等級 | 更新 | 判定 | 発行 |
---|---|---|---|---|---|
身体障害者手帳 | 身体障害者福祉法 | 1~6級 | 不要 | 身体障害者更生相談所 | 都道府県知事、指定都市の市長、中核市の市長 |
療育手帳 | 事務次官通知 | A(重度)、B(その他) | 不要 | 知的障害者更生相談所 | 都道府県知事、指定都市の市長、児童相談所を設置する中核市の市長 |
精神障害者保健福祉手帳 | 精神保健福祉法 | 1~3級 | 2年ごと | 精神保健福祉センター | 都道府県知事、指定都市の市長 |
身体障害者手帳は身体障害者であることを証明するものとなりますから、身体障害者として障害福祉サービスを受けるためには身体障害者手帳が必要です。
知的障害者と精神障害者は手帳がなくても障害福祉サービスを受けられます。
障害者手帳は判定という判断が伴いますので、都道府県(指定都市、中核市)が発行を担っています。
ですので判定機関である身体障害者更生相談所、知的障害者更生相談所、精神保健福祉センターは全て都道府県(指定都市)が設置しています。
過去問
第29回 問題60
障害者手帳に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
1 療育手帳は、発達障害者支援法に基づき交付される。
2 療育手帳の交付の申請は、知的障害者更生相談所長に対して行う。
3 身体障害者が「障害者総合支援法」のサービスを利用する場合には、身体障害者手帳の交付を受ける必要がある。
4 手足の麻痺や音声・言語障害のない高次脳機能障害は、身体障害者手帳の交付対象である。
5 精神障害者保健福祉手帳の更新は、5年ごとに行わなければならない。
1 療育手帳は、発達障害者支援法に基づき交付される。
療育手帳は知的障害対象です。
厚生事務次官通知「療育手帳制度について」に基づいて交付されています。
2 療育手帳の交付の申請は、知的障害者更生相談所長に対して行う。
これは中途半端に学習していると正解にしてしまいそうですが、療育手帳の申請は居住地所管の福祉事務所長に対して行います。
知的障害者更生相談所は申請に対して判定を行う機関で、都道府県が設置しています。
そして、療育手帳を交付するのは都道府県です。
3 身体障害者が「障害者総合支援法」のサービスを利用する場合には、身体障害者手帳の交付を受ける必要がある。
正しいです。
障害福祉サービスを受けるに当たって、知的障害者や精神障害者は手帳が必須ではありませんが、身体障害者は必要です。
なぜなら身体障害を証明するものが身体障害者手帳だからです。
4 手足の麻痺や音声・言語障害のない高次脳機能障害は、身体障害者手帳の交付対象である。
高次脳機能障害は精神障害なので、精神障害者保健福祉手帳の交付対象です。
5 精神障害者保健福祉手帳の更新は、5年ごとに行わなければならない。
またまた出ました。
数字の入った選択肢ですが、やはりこれも間違いです。
5年毎ではなく、2年毎です。
第31回 問題56
「平成28年生活のしづらさなどに関する調査(全国在宅障害児・者等実態調査)」における障害者の実態に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
1 障害者手帳の種類別でみると、精神障害者保健福祉手帳所持者数が最も多い。
2 身体障害者手帳所持者のうち、65歳以上の者は3分の2を超えている。
3 療育手帳所持者数は、前回の調査時(平成23年)よりも減少している。
4 精神障害者保健福祉手帳所持者のうち、最も多い年齢階級は「20歳~29歳」である。
5 身体障害者手帳所持者のうち、障害の種類で最も多いのは内部障害である。
1 障害者手帳の種類別でみると、精神障害者保健福祉手帳所持者数が最も多い。
身体障害者手帳所持者が最も多いので間違いです。
身体障害者手帳は400万人以上、療育手帳は約100万人、精神障害者保健福祉手帳は80万人程度です。
2 身体障害者手帳所持者のうち、65歳以上の者は3分の2を超えている。
正しいです。
65歳以上の身体障害者手帳所持者は300万人以上で、70%を超えています。
3 療育手帳所持者数は、前回の調査時(平成23年)よりも減少している。
療育手帳所持者は2011年では60万人程度でしたが、今や100万人程になっています。
私が福祉の世界に入った2007年頃はたしか50万人程度だったかと思います。
増え続けています。
4 精神障害者保健福祉手帳所持者のうち、最も多い年齢階級は「20歳~29歳」である。
精神障害者保健福祉手帳所持者のうち、最も多い年齢階級は「40歳~49歳」です。
5 身体障害者手帳所持者のうち、障害の種類で最も多いのは内部障害である。
最も多いのは「肢体不自由」で200万人近くいます。
次いで「内部障害」が120万人程度です。
第29回 問題61
障害者の法律上の定義に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
1 障害者基本法における「障害者」には、一時的に歩行困難になった者も含まれる。
2 発達障害者支援法における「発達障害者」とは、発達障害がある者であって発達障害及び社会的障壁により日常生活又は社会生活に制限を受けるものをいう。
3 「障害者総合支援法」における「障害者」は、20歳以上の者とされている。
4 知的障害者福祉法における「知的障害者」とは、児童相談所において知的障害であると判定された者をいう。
5 「精神保健福祉法」における「精神障害者」とは、精神障害がある者であって精神障害及び社会的障壁により日常生活又は社会生活に制限を受けるものをいう。
1 障害者基本法における「障害者」には、一時的に歩行困難になった者も含まれる。
「一時的」だと障害者とは定義されません。
2 発達障害者支援法における「発達障害者」とは、発達障害がある者であって発達障害及び社会的障壁により日常生活又は社会生活に制限を受けるものをいう。
正しいです。
3 「障害者総合支援法」における「障害者」は、20歳以上の者とされている。
20歳以上ではなく18歳以上です。児童の定義は18歳未満でしたね。
4 知的障害者福祉法における「知的障害者」とは、児童相談所において知的障害であると判定された者をいう。
そもそも「知的障害者」というものは定義されていません。
5 「精神保健福祉法」における「精神障害者」とは、精神障害がある者であって精神障害及び社会的障壁により日常生活又は社会生活に制限を受けるものをいう。
精神保健福祉法では「精神障害者」とは、「統合失調症、精神作用物質による急性中毒又はその依存症、知的障害、精神病質その他の精神疾患を有する者をいう」と定義されています。問題文の定義は障害者基本法における「障害者」の定義に近いですね。
第32回 問題60
発達障害者支援法の規定に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
1 市町村は、個々の発達障害者の特性に応じた適切な就労の機会の確保、就労定着のための支援に努めなければならない。
2 都道府県は、支援体制の課題を共有するとともに、関係者の連携の緊密化を図るため、発達障害者支援地域協議会を設置しなければならない。
3 発達障害者とは、発達障害がある者であって発達障害及び社会的障壁により日常生活又は社会生活に制限を受けるものをいう。
4 都道府県知事は、発達障害者に対する専門的な就労の支援等を障害者就業・生活支援センターに行わせることができる。
5 都道府県知事は、該当する者に精神障害者保健福祉手帳を交付する。
1 市町村は、個々の発達障害者の特性に応じた適切な就労の機会の確保、就労定着のための支援に努めなければならない。
誤りです。市町村ではなく国および都道府県です。
2 都道府県は、支援体制の課題を共有するとともに、関係者の連携の緊密化を図るため、発達障害者支援地域協議会を設置しなければならない。
このような義務規定はありません。
そもそも発達障害者支援センターが任意設置ですから。
3 発達障害者とは、発達障害がある者であって発達障害及び社会的障壁により日常生活又は社会生活に制限を受けるものをいう。
これが正解です。
非常にあいまいな定義なんですが、これが正解なんです。
精神障害者の具体的な定義とは大違いです。
4 都道府県知事は、発達障害者に対する専門的な就労の支援等を障害者就業・生活支援センターに行わせることができる。
障害者就業・生活支援センターはそもそも国の機関ですから、都道府県知事にそのような権限はありません。
5 都道府県知事は、該当する者に精神障害者保健福祉手帳を交付する。
精神障害者福祉手帳は「精神保健福祉法」に規定されており、発達障害者支援法ではありません。
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