【日本の社会保障制度】スティグマを抱えても4層構造で誰一人取り残さない

社会保障制度というと、年金とか医療保険を思い浮かべる人が多いと思います。

このような我々に身近な例を考えながら、日本の社会保障制度の仕組みを見ていきましょう。

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社会保障制度の構造

日本の社会保障制度は、
①社会保険制度
②社会福祉制度
③生活困窮者自立支援制度
④生活保護制度
と4層構造になっています。

日本の社会保障制度の仕組み

社会保険制度

冒頭で書いた年金や医療保険は一番上の階層に当たる「社会保険制度」に該当します。

社会保険制度は全国民が対象で、この社会保険制度によってすべての国民は生存権等の様々な権利を保証されるよう設計される事が理想で、日本の社会保障制度のメインは「社会保険制度」です。

しかし、日本は資本主義国家ですから高所得者も低所得者もいて、どうしても貧富の差が生まれてきます。

すると社会保険制度だけでは救われない人も出てくるわけです。

社会福祉制度

例えば高齢、障害や病気、母子家庭などなどが原因で低所得に陥ってしまう人が必ず出てきます。

資本主義はこのような格差がどうしても生まれるので、第二の社会保障制度として「社会福祉制度」を設け、低所得者を救済する仕組みができています。

このように日本の社会保障制度には、全国民を対象とした社会保険制度と、それでは救われない低所得者向けの社会福祉制度がありますが、それでもこれら2つの網から漏れ落ちてくる人がでてきます。

そのために最後のセーフティーネットとして、生活保護制度があるのです。

生活保護制度

社会保障制度の中でも生活保護制度の歴史は最も古く、戦後すぐに旧生活保護法ができています。

元々、生活保護法だけで救貧政策が実施されていた日本に、障害者や児童に向けた社会福祉制度ができ、そして社会保険制度が充実してきたわけです。

生活保護法は憲法第25条で保証される生存権を根拠として「健康で文化的な最低限度の生活」が保証されています。

ギリギリの生活ではなく「健康で文化的な」生活が保証されているわけですから、かなり手厚い保障がされますが、それ故に生活保護に一度陥ってしまうとなかなか抜けられない仕組みになってしまっています。

カリスマくん
カリスマくん

最低賃金で週5日、毎日8時間働くよりも生活保護を受けていた方が収入が多かったりするから、当然生活保護から抜け出して働こうとはなかなか思わないよね。

長らく日本の社会保障制度はこれら3層構造になっていたのですが、急増する生活保護受給者に対応し生活保護一歩手前で救う仕組み、生活保護制度に次ぐ第二のセーフティーネットが求められてきます。

生活困窮者自立支援制度

生活保護の1歩手前で支える「生活困窮者自立支援制度」は2015年にスタートしました。

生活困窮者自立支援制度

もともと日本の社会福祉制度の主たる対象は「高齢」「障害」「児童」の3者でした。

しかし近年はこの3者に該当しない人達が困窮する非常に複雑な社会になってしまいました。

例えば働き盛りの40~50代の孤独死の問題、これは福祉に繋がれている高齢者よりも福祉と無縁の稼働年齢層の人達が社会的に孤立し、誰からも見つけられずひっそりと亡くなるという現代特有の社会問題です。

さらに、ワーキングプア、ニート、ひきこもり、ネットカフェ難民などなど、単なる経済的困窮だけではない様々な形の困窮や社会的孤立が蔓延しています。

カリスマくん
カリスマくん

ぼくはホームレスの人を助けたいと思って声をかけたら、ホームレスの人から「寒い冬に公園で寝る辛さがおまえにわかるか!」って怒鳴られた。

このような人々の救済にはこれまで生活保護制度しかなかったのですが、近年は生活保護受給者が急増し国家財政を圧迫するようになってしまったため、生活保護の一歩手前で救済する仕組みが求められ「生活困窮者自立支援制度」ができたのです。

各制度の対象

1962年「社会保障制度の総合調整に関する基本方策についての答申及び社会保障制度の推進に関する勧告」によると、それぞれの対象は以下のようになります。

社会保険制度:一般所得者層
社会福祉制度:低所得者層
生活保護制度:貧困階層

社会扶助制度とスティグマ

上で見てきた生活保護制度や生活困窮者自立支援制度などの「社会扶助制度」は特定の人達だけに選別主義的に支援を提供し、その財源は全て税金です。

社会扶助制度のこのような性格から、その支援を受ける人達はスティグマを抱えることになります。

特に生活保護制度は社会扶助の中でも「公的扶助」と呼ばれ、スティグマの問題が付きまといます。

スティグマとは「負の烙印」と訳されますが、社会から個人に押し付けられたネガティブなレッテルのことです。

だからこそ、スティグマを抱えることのない社会保険制度が社会保障の中心になっているのです。

社会保険制度は特定の人ではなく一般人が対象で、財源もほとんどが保険料で賄われているので、社会保険制度を利用していてスティグマを抱えることはありえません。

過去問

第23回 問題28

福祉サービスを選別主義的に提供すると、サービスは真に必要な人々に行き渡るので、利用者がスティグマを感じることが少なくなる。

これは間違いです。
選別主義的に特定の人に福祉サービスを提供すると、周囲はその人達だけズルいと思ったり、利用者は後ろめたさを感じたり、まさにスティグマを感じてしまいます。

まとめ

このように日本の社会保障制度は「社会保険制度」を根幹としつつも、それでは救済できない人が社会保険の網からもれ、さらにその下の社会福祉の網からも漏れる人が続出し、生活困窮者自立支援制度が満足に機能していると言いきれない現状では、これからも最後のセーフティーネットである生活保護の網にかかる人たちがどんどん増えると思われます。

第一のネットである「社会保険制度」は、保険制度ですから保険料を支払って制度に加入することでその恩恵を受ける事ができます。

日本の社会保障制度の根幹はこの社会保険制度で、全ての国民が保険料を払って加入しているのです。

カリスマくん
カリスマくん

年金や医療保険は、国民全員が加入しているよね。
国民皆保険・皆年金制度というよ。

第二のネットである「社会福祉制度」は利用者が保険料を拠出するわけではなく、一部利用料以外は全て税金で賄われます。

社会保険制度は「応益負担」(受けた益に応じた費用を負担)、社会福祉制度は「応能負担」(支払い能力に応じた費用を負担)が基本となっています。

第三のネットである「生活困窮者自立支援制度」は、社会福祉制度の狭間で福祉の網から漏れてくる人たちを救うためにあります。

さらに急増する生活保護受給者の保護費が国の財政を圧迫し、生活保護に陥る一歩手前で救う仕組みとしての機能が求められています。

最後のセーフティーネットである「生活保護制度」は、文字通り最後の砦です。

このような社会保障制度の仕組みは、「所得の再分配」の仕組みでもあり、たくさん収入のある人からの税金を貧しい人たちに分配する仕組みにもなっていることが理解できるでしょう。

過去問

第34回 問題51

社会保険と公的扶助に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 社会保険は特定の保険事故に対して給付を行い、公的扶助は貧困の原因を問わず、困窮の程度に応じた給付が行われる。
2 社会保険は原則として金銭給付により行われ、公的扶助は原則として現物給付により行われる。
3 社会保険は救貧的機能を果たし、公的扶助は防貧的機能を果たす。
4 社会保険は事前に保険料の拠出を要するのに対し、公的扶助は所得税の納付歴を要する。
5 公的扶助は社会保険よりも給付の権利性が強く、その受給にスティグマが伴わない点が長所とされる。

選択肢1が正解です。

第28回 問題50

日本の社会保険制度と公的扶助制度の基本的な特質に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 公的扶助は防貧的な機能をもつ。
2 公的扶助は個別の必要に応じて給付を行う。
3 社会保険の給付は、実施機関の職権により開始される。
4 社会保険では原因のいかんを問わず、困窮の事実に基づいて給付が行われる。
5 公的扶助は、保険料の拠出を給付の前提条件としている。

1 公的扶助は防貧的な機能をもつ。
誤りです。防貧的機能ではなく救貧的機能です。

2 公的扶助は個別の必要に応じて給付を行う。
正しいです。生活保護の必要即応の原則などですね。

3 社会保険の給付は、実施機関の職権により開始される。
誤りです。社会保険は財産や所得の多い少ないに関わらず一定額の保障を提供する「普遍主義」で行われます。そのため実施機関の職権で行うようなものではありません。それに対して「選別主義」は社会福祉の対象者を所得水準で選別する方法です。

4 社会保険では原因のいかんを問わず、困窮の事実に基づいて給付が行われる。
誤りです。これは公的扶助の説明です。

5 公的扶助は、保険料の拠出を給付の前提条件としている。
誤りです。これは社会保険の説明です。

第34回 問題21

他者や社会集団によって個人に押し付けられた「好ましくない違いを表わす印」に基づいて、それを負う人々に対して様々な差別が行われることをゴッフマン(Goffman, E.)は指摘した。次のうち、この「好ましくない違いを表わす印」を示す概念として、最も適切なものを 1 つ選びなさい。
1 自己成就的予言
2 マイノリティ
3 スティグマ
4 クレイム申立て
5 カリスマ

選択肢3が正解です。

カリスマくん
カリスマくん

選択肢にカリスマが出てきた。試験中にニヤリとした人が多かったみたい( ̄▽ ̄)

講義動画

次の記事

それでは次は、4層構造の一番下、最後の砦である「生活保護制度」を取り上げます。

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「補足性の原理」と聞いてその内容がわかりますか?生活保護制度では、まずは原理・原則を押さえましょう。そして8種類の扶助の中身について、戦前の救護法から現在の生活保護法に至るまでの扶助の変遷と合わせて覚えましょう。

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