制度の制定経緯
日本の福祉の主たる対象は戦後からずっと「高齢者」「障害者」「児童」の3者でした。
しかし近年、ワーキングプア、ひきこもり、ニート、ネットカフェ難民と呼ばれる「福祉を必要としているのに福祉の網から漏れてくる人」が増えてきたのです。
生活保護受給者は全国で200万人を超え、自殺者は年間2万人を超えています。
孤独死する人は年間3万人を超え、その中身は30~50代の働き盛りの人たちが少なくありません。
なぜなら、働き盛りの稼働年齢層の人たちは福祉の対象となっておらず、社会的孤立により孤独死する割合が高いからです。
そこで2015年、福祉の網から抜け落ちている全ての人を対象にした「生活困窮者自立支援法」が制定されました。
これによって日本の福祉の対象が大きく拡大し普遍化しました。
生活困窮者とは生活保護に陥る一歩手前の人たちを想定し、単なる経済的困窮者だけでなくひきこもりなどの社会的孤立者も含めた、とにかく生活に困窮していて困っている人が対象となっています。
このような人達に、包括的で継続的な支援を実施すること、そして、なぜ生活保護に陥ってしまった人が生活保護から抜け出せないのか、その解決のための制度でもあります。
つまり、生活保護を抜け出すためには、被保護者自身が自尊心や自己肯定感を回復させ、自ら仕事をやろうとすることが重要で、そのキッカケを与えることがこの制度の主旨になっています。
目的
生活困窮者自立支援制度は、生活困窮者自立支援法に規定されています。
事業
実施主体は福祉事務所設置自治体、つまり都道府県および市、福祉事務所を設置している町村ということです。
・自立相談支援事業(必須事業)
・住居確保給付金(必須事業)
・就労準備支援事業
・就労訓練事業
・家計相談支援事業
・子どもの学習支援事業
・一時生活支援事業
自立相談支援事業
生活困窮者自立支援法は、とにかく困っている人全てが生活保護に陥ることなく、最終的には経済的自立ができるようにと考えられてできた制度です。
そのためにはまず、どんな人でも相談できる窓口が必要で、支援の入り口として「自立相談支援事業」が設けられています。
介護保険制度や障害福祉にも相談支援事業がありますが、生活困窮者自立支援法で規定されている相談支援は「自立相談支援事業」です。
自立相談支援事業は必須事業となっており、福祉事務所設置自治体が必ず実施しなければならない事業です。
福祉事務所は都道府県と市に設置義務があり、町村は任意での設置ですので、必ずしもすべての市町村に自立相談支援事業があるわけではありません。
自立相談支援事業では、困窮の種類やレベルによって、働く能力が乏しい人は就労準備支援事業につないだり、無駄使いが多くて経済的に困窮している人には家計相談支援事業を勧めたり、事業の利用についてのコーディネートを行います。
住居確保給付金
住居を確保するための給付金の支給も必須事業になっています。
住居の確保は最優先の福祉です。
住む場所がなければ就労支援も生活支援も受けられませんから。
生活困窮者自立支援法で規定されているサービスの中で必須事業になっているものは、この住居確保給付金と自立相談支援事業ですので覚えておきましょう。
就労準備支援事業
自立相談支援事業の相談支援員や福祉事務所のケースワーカーからの紹介で、例えば生活が乱れていて就職することが難しい人が、日常生活や社会生活の自立を目指してこの事業に参加します。
1年を限度に、日常生活自立→社会生活自立→経済的自立へと進んでいきます。
僕は、この事業に携わっていたことがあるよ。利用者と一緒に農業で小麦を栽培してパンを販売していたよ(写真)。
就労準備支援事業は農業に限りませんが、農作業というのは就労準備に最適だという事がわかりました。
身体に障害を持つ人、統合失調症の人、うつ病の人、刑務所出所者で暴力沙汰をすぐに起こしてしまう人などなど、そんな人たちと一緒に農作業に精を出しました。
最初は時間通りに農園に来ることが難しかったり、仲間とコミュニケーションをとることに躊躇する人が多いのですが、一緒に農作業をして汗を流す中で少しずつ改善され、生活リズムが整い最終的に一般就労できる人もでてきます。
この事業の対象は生活保護に陥る一歩手前の生活困窮者ですが、実際は生活保護受給者と一体となって実施していました。
生活保護受給者であっても、生活困窮者であっても、生活課題などは共通するものがあるので、一体として事業を実施したほうが効率が良いのです。
実際、生活保護受給者と生活困窮者で線引きする意味はほとんどありません。
就労訓練事業
就労準備支援事業である程度社会性を身に着けてきたら、次の段階として「就労訓練事業」にレベルアップします。
これはいわゆる中間的就労といったもので、何と何の中間かと言うと、「一般就労」と「福祉的就労」の中間という意味です。
この事業で最低賃金程度を保障されて働きながら一般就労を目指す第二種社会福祉事業です。
家計相談支援事業
生活困窮者は基本的にお金に困っている人がほとんどですが、お金に困る原因は2つあって、仕事に就けず収入が少なかったりすること、もう一つは浪費癖があり支出が大きいこと。
就労準備支援事業や就労訓練事業では前者の対策がなされますが、家計相談支援事業は後者の対策です。
家計簿を作って自分がいかに無駄な買い物をしているか、お金を浪費しているかを分かってもらい、お金が溜まるような習慣を身に付けます。
まとめ
経済的に困っていれば、収入を増やすか支出を減らすかしかありません。
生活困窮者自立支援制度は、まず入り口として自立相談支援事業があって、その上で就労準備支援事業や就労訓練事業などの就労支援による収入増と、家計相談支援事業による支出減の両輪で対応していきます。
さらに住居確保給付金も自立相談支援事業と同じく必須事業ですので合わせて覚えましょう。
過去問
第35回 問題28
生活困窮者自立支援法の目的規定に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
1 生活困窮者に対する自立の支援に関する措置を講ずることにより、生活困窮者の自立の促進を図ること。
2 すべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、最低限度の生活を営めるよう必要な措置を講ずることにより、生活困窮者の自立の促進を図ること。
3 尊厳を保持し、能力に応じ自立した日常生活を営めるよう、必要な保健医療及び福祉サービスに係る給付を行い、生活困窮者の自立の促進を図ること。
4 能力に応じた教育を受ける機会を保障する措置を講ずることにより、生活困窮者の自立の促進を図ること。
5 社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会が確保されるよう施策を講ずることにより、生活困窮者の自立の促進を図ること。
選択肢1が正解です。
第30回 問題63
生活困窮者自立支援法に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 住居の確保を目的とした給付金を支給する制度が設けられている。
2 一時生活支援事業とは、住居を有する生活困窮者に対して食事の提供を行う事業である。
3 自立相談支援事業は、相談支援を通して生活困窮者の就職のあっせんを行う事業である。
4 就労準備支援事業は、3年を限度として訓練を提供する事業である。
5 家計相談支援事業は、生活困窮者の家計に関する問題につき生活困窮者からの相談に応じ、必要な資金の貸付けをする事業である。
1 住居の確保を目的とした給付金を支給する制度が設けられている。
ずばりこれが正解です。
必須事業の住居確保給付金のことですね。
2 一時生活支援事業とは、住居を有する生活困窮者に対して食事の提供を行う事業である。
一時生活支援事業とは、ホームレスに対するシェルター事業と思ってください。
つまり緊急的な保護に近いものなので食事の提供だけを行う事業ではありません。
3 自立相談支援事業は、相談支援を通して生活困窮者の就職のあっせんを行う事業である。
就職のあっせんができるのはハローワークだけです。
4 就労準備支援事業は、3年を限度として訓練を提供する事業である。
3年ではなく1年を限度として訓練します。
5 家計相談支援事業は、生活困窮者の家計に関する問題につき生活困窮者からの相談に応じ、必要な資金の貸付けをする事業である。
必要な資金の貸し付けを行うのではありません。
第30回 問題144
生活困窮者自立支援法による自立相談支援事業を行う責務を有する組織・機関として、正しいものを1つ選びなさい。
1 公共職業安定所(ハローワーク)
2 市及び福祉事務所を設置する町村又は都道府県
3 児童相談所
4 都道府県労働局
5 障害者職業センター
これは簡単です。
正解は選択肢2です。
第31回 問題144
被保護者就労準備支援事業(一般事業分)に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 日常生活自立に関する支援は含まれない。
2 公共職業安定所(ハローワーク)に求職の申込みをすることが義務づけられている。
3 社会生活自立に関する支援が含まれている。
4 公共職業訓練の受講が義務づけられている。
5 利用するためには医師の診断書の提出が義務づけられている。
「被保護者就労準備支援事業」とは生活保護受給者向けの就労準備支援事業ということです。
生活保護受給者も生活困窮者も一体となって事業を展開することができるのが「生活困窮者自立支援制度」です。
1 日常生活自立に関する支援は含まれない。
就労準備支援事業は「日常生活自立」→「社会生活自立」→「経済的自立」を目指すのでした。なので間違いです。
2 公共職業安定所(ハローワーク)に求職の申込みをすることが義務づけられている。
こんな規定はありません。
多くの人が躊躇することなく利用できるようにしたいのでこんな義務規定があるわけないです。
3 社会生活自立に関する支援が含まれている。
これが正解です。
4 公共職業訓練の受講が義務づけられている。
こんな義務規定があるわけないです。
5 利用するためには医師の診断書の提出が義務づけられている。
こんな義務規定があるわけないです。
このような選択肢は質が悪いと思います。全く聞いたことのないような内容の選択肢を作られると、「勉強していないだけか」と思ってしまいます。
よく勉強した人は、「自分が知らない内容は間違い選択肢である」と考えましょう。
第28回 問題31
生活困窮者自立支援制度における自立支援の在り方に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 行政担当者に、生活困窮者の早期発見を目的とする地域巡回を義務づける。
2 自己肯定感の回復や居場所・役割の発見につながる支援を重視する。
3 包括的・継続的な支援では、当事者との毎日の面談が求められる。
4 就労支援は除かれる。
5 生活福祉資金貸付事業により資金を借り受けている世帯は対象としない。
1 行政担当者に、生活困窮者の早期発見を目的とする地域巡回を義務づける。
そんな義務づけはしていません。
2 自己肯定感の回復や居場所・役割の発見につながる支援を重視する。
これが正解です。
この制度の主旨です。
3 包括的・継続的な支援では、当事者との毎日の面談が求められる。
包括的・継続的な支援が求められますが、毎日の面談は求められません。
4 就労支援は除かれる。
生活困窮者自立支援制度には就労支援が含まれます。
就労準備支援事業や就労訓練事業です。
5 生活福祉資金貸付事業により資金を借り受けている世帯は対象としない。
そんなことはありません。
第36回 問題68
事例を読んで、生活困窮者自立相談支援機関のD相談支援員(社会福祉士)が提案する自立支援計画案の内容に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
〔事 例〕
Eさん(50歳)は、実家で両親と3人暮らしである。両親はともに80代で、実家は持ち家だが他に資産はなく、一家は両親の老齢基礎年金で生活している。Eさんは大学卒業後、出身地の会社に就職したが人間関係がこじれて5年前に退職し、その後は定職に就かず、実家でひきこもり状態である。Eさんの状況を両親が心配し、またEさん自身もこの状況をどうにかしたいと考えて、Eさんは両親とともに生活困窮者自立相談支援機関に来所した。D相談支援員は、アセスメントを経て、Eさんに今後の支援内容を提案した。
1 社会福祉協議会での被保護者就労支援事業の利用
2 公共職業安定所(ハローワーク)での生活困窮者就労準備支援事業の利用
3 認定事業者での生活困窮者就労訓練の利用
4 地域若者サポートステーションでの「求職者支援制度」の利用
5 生活保護法に基づく授産施設の利用
1 社会福祉協議会での被保護者就労支援事業の利用
誤りです。Eさんは被保護者ではありません。
2 公共職業安定所(ハローワーク)での生活困窮者就労準備支援事業の利用
誤りです。生活困窮者就労準備支援事業はハローワークではなく、福祉事務所設置自治体が実施しています。
3 認定事業者での生活困窮者就労訓練の利用
これが正解です。生活困窮者就労訓令事業は、Eさんのような一般就労が可能な方にむけた就労訓練の機会を提供するものです。
4 地域若者サポートステーションでの「求職者支援制度」の利用
誤りです。サポステの対象は15~49歳なのでEさんは対象外です。
5 生活保護法に基づく授産施設の利用
誤りです。生活保護法に基づく授産施設は福祉事務所の管轄なので、生活困窮者自立相談支援機関が決められることではありません。
公認心理師 第2回 問117
生活困窮者自立支援制度に含まれないものを1つ選べ。
① 医療費支援
② 家計相談支援
③ 就労準備支援
④ 子どもの学習支援
⑤ 住居確保給付金の支給
選択肢①が正解です。
次の記事
次は、日本の5種類の社会保険制度を見ていきます。
コメント
いつも大変お世話になっています。ブログ記事、大変分かりやすく面白いです。
普段本を読まない私の能力では、時間がかかりすぎて、もどかしい((+_+))
でも、楽しんで勉強できるカリスママジック、凄いです。
ありがとー〰️(ノ≧▽≦)ノ
がんばるんだよ〰️!!!