公権力から国民の権利や利益を守るための救済三法は、国家賠償法、行政事件訴訟法、行政不服審査法で成り立っています。
ここでは国家賠償法によって国民および公務員がどのように守られているか見てみましょう。
そして、訴訟類型についてもまとめています。
1947年「国家賠償法」制定
戦後すぐに制定された国家賠償法の第一条は以下のような条文になっています。
第一条第一項「国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる」
第一条第二項「前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があったときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する」
上記のように、公務員が職務中に犯した過失は、公務員自身に賠償の責任はなく国家が代わりに賠償します。
このように、公務員は守られているのです。
行政訴訟類型
行政事件訴訟法では、不服申立と取消訴訟についての自由選択主義と不服申立前置主義の2種類を学びました。
ここでは取消訴訟を含めた訴訟類型についてみていきます。
主観訴訟
主観訴訟は個人の権利や利益を守るために行う訴訟です。
抗告訴訟
抗告訴訟は主観訴訟の中でも、行政から国民に対する行政処分という上下関係に対する訴訟です。
取消訴訟がこれ。その他、無効等確認訴訟、不作為の違法確認訴訟、義務付け訴訟、差止め訴訟があるよ。
当事者訴訟
当事者訴訟は、抗告訴訟のような上下関係ではなく対等な立場での訴訟です。
公務員の地位確認訴訟や国籍確認訴訟などが該当するよ。
客観訴訟
主観訴訟は個人の権利や利益を守るためのものでしたが、客観訴訟は法秩序の適正維持を目的とした訴訟です。
民衆訴訟
法秩序の適正維持のために民衆が訴訟を起こすものです。
ある自治体の公金の使い道がおかしいとして市民が訴訟をするとかだね。
機関訴訟
県が国を訴えるなど、公的機関が公的機関を訴えるものです。
沖縄県が辺野古基地移設に反対して国を訴えたやつだね。
訴訟類型まとめ
分類 | 訴訟類型 | 種類 | 内容 |
---|---|---|---|
主観訴訟 | 抗告訴訟 | 取消訴訟 | 行政処分の取り消しを求める |
無効等確認訴訟 | 処分や決済の存否、効力の有無の確認 | ||
不作為の違法確認訴訟 | 申請に対し、行政庁が相当な期間内に処分や決済を行わない場合に、その違法を確認 | ||
義務付け訴訟 | 行政がすべき処分をしない場合に義務付ける | ||
差止め訴訟 | 行政がすべきでない処分をしようとする場合に差し止める | ||
当事者訴訟 | 実質的当事者訴訟 | 公務員の地位確認訴訟、国籍確認訴訟など | |
形式的当事者訴訟 | 土地収用法の補償額に関する訴訟 | ||
客観訴訟 | 民衆訴訟 | 選挙人たる資格その他自己の法律上の利益にかかわらない資格で提起される | |
機関訴訟 | 国または地方公共団体の機関が両当事者となって争う(国vs県など) |
過去問
第29回 問題80
国家賠償法に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
1 公立の福祉施設の職員の過失により加えられた利用者への損害に対して、国家賠償法に基づく損害賠償請求はできない。
2 公務員の違法な公権力行使により損害を被った者は、国家賠償法に加えて、公務員個人の民法上の不法行為も問うことができる。
3 公務員が適切に公権力を行使しなかったことによる損害に対して、国家賠償法に基づく損害賠償請求はできない。
4 公務員が家族旅行に行った先で、誤って器物を損壊したことに対して、国家賠償法に基づく損害賠償請求はできない。
5 非番の警察官が制服を着用して行った行為による損害に対して、国家賠償法に基づく損害賠償請求はできない。
1 公立の福祉施設の職員の過失により加えられた利用者への損害に対して、国家賠償法に基づく損害賠償請求はできない。
間違いです。
公立の福祉施設職員は公務員です。
公務員が「過失によって」利用者に損害が発生したので、国家賠償法に基づく損害賠償請求ができます。
2 公務員の違法な公権力行使により損害を被った者は、国家賠償法に加えて、公務員個人の民法上の不法行為も問うことができる。
間違いです。
公務員の違法な公権力による損害は、国または公共団体が賠償する責任を負い、公務員個人の民法上の不法行為責任は問われません。
問われることになると公務員の活動が消極的になり国民に不利益が生じることが考えられるからです。
3 公務員が適切に公権力を行使しなかったことによる損害に対して、国家賠償法に基づく損害賠償請求はできない。
間違いです。
公務員が適切に公権力を行使しなかったことによる損害に対しても、損害賠償請求ができます。
4 公務員が家族旅行に行った先で、誤って器物を損壊したことに対して、国家賠償法に基づく損害賠償請求はできない。
これが正解です。
公務員が休日に起こしたことは個人の責任なので、国家賠償法による国の責任にはならないので損害賠償請求はできません。
5 非番の警察官が制服を着用して行った行為による損害に対して、国家賠償法に基づく損害賠償請求はできない。
間違いです。
警察官は非番であっても制服を着用している場合は職務中と見なされるので国家賠償法による損害賠償請求ができます。
その行為を客観的に外から見た様子で勤務中か非番かを判断されます(外形標準説といいます)。
第28回 問題77
Kさんは生活に困窮したため、2015年(平成27年)10月1日に福祉事務所で生活保護申請を行ったところ、同月14日に保護の要件を満たさないとして不支給決定がなされた。
Kさんはこれを不服として審査請求を行ったが、同年12月1日にこれも棄却されたため、速やかに訴訟を提起することにした。
次のうち、訴訟に当たって選択すべき行政法上の訴訟類型として、適切なものを1つ選びなさい。
1 当事者訴訟
2 民衆訴訟
3 機関訴訟
4 取消訴訟
5 無効等確認訴訟
これは、選択肢4の「取消訴訟」ですね。
次の記事
次は、「福祉関係機関」のまとめです。
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