日本の社会保障制度の根幹である「社会保険制度」について見ていきましょう。
日本では5つの社会保険制度があります。
・年金制度
・医療保険
・雇用保険
・労災保険
・介護保険
それぞれの社会保険制度について押さえるべきは以下の7点です。
・被保険者
・保険料負担者
・納付義務者
・保険料額
・財源
・制度内容
下の表にすべてまとめていますが、詳しく見ていきましょう。
それぞれについては別記事で詳しく取り上げますので、ここでは5つまとめて俯瞰的に見ていきましょう。
保険者
保険者とは、その保険制度を運用している者のことです。
年金制度や雇用保険、労災保険は国全体で統一して運用すべきものなので「政府」が保険者になっています。
しかし、医療保険と介護保険は、その地域の病院や介護施設など地域に根差した運営が必要なので、保険者は政府ではありません。
介護保険は市町村が保険者ですし、国民健康保険もしばらく市町村が保険者であった時代が続きましたが、現在は都道府県も加わっています。
後期高齢者医療制度の保険者は基本的に市町村なのですが、単一の市町村ではシンドイので都道府県内全ての市町村が広域連合を作って、その広域連合(後期高齢者医療広域連合)が保険者となっています。
分類 | 保険制度 | 保険者 |
---|---|---|
年金制度 | 国民年金 | 政府 |
厚生年金、共済年金 | 政府 | |
医療保険 | 国民健康保険 | 市町村&都道府県 |
協会けんぽ | 全国健康保険協会 | |
組合健保 | 健康保険組合 | |
後期高齢者医療制度 | 後期高齢者医療広域連合 | |
雇用保険 | 失業給付 | 政府 |
雇用保険二事業 | 政府 | |
労災保険 | 労災保険 | 政府 |
介護保険 | 介護保険 | 市町村(広域連合) |
医療保険の保険者は特に複雑なので改めてまとめます。
医療保険は自営業者などが加入する「国民健康保険」と、サラリーマン等が加入する「健康保険」、さらに75歳以上の「後期高齢者医療制度」があります。
国民健康保険はずっと市町村が保険者でしたが、都道府県が加わりました。
自営業の中でも、建設業や医師などの特定の業種の人は「国民健康保険組合」に加入します。
さらに「健康保険」は2種類、中小企業に多い「協会けんぽ」と大企業に多い「組合健保」があります。
医療保険の保険者を改めて以下にまとめます。
対象 | 医療保険 | 種類 | 保険者 |
---|---|---|---|
自営業 | 国民健康保険 | 都道府県&市町村 | |
国民健康保険組合 | 国民健康保険組合 | ||
被用者 | 健康保険 | 協会けんぽ | 全国健康保険協会 |
健康保険 | 組合健保 | 健康保険組合 | |
後期高齢者 | 後期高齢者医療制度 | 後期高齢者医療広域連合 |
ちなみに、保険者(市町村)の委託を受けて保険者事務の一部を実施する法人を指定市町村事務受託法人といい、指定は都道府県が行うよ。
被保険者
被保険者とはその保険の加入対象になっている人です。
年金制度
国民年金の被保険者は以下の3種類あります。
第2号:65歳未満の厚生年金被保険者
第3号:20~60歳の第2号の配偶者
サラリーマンなどの被用者が第2号、その配偶者が第3号、それ以外が第1号となります。
国民年金は厚生年金に加入している人も含めて全員が加入しますので、すべての人が上記のいずれかに該当します。
厚生年金に加入して保険料を支払っている人も自動的に国民年金に加入していることになっています。
下の図にあるように、国民年金=「基礎年金」として土台になりその上に厚生年金や共済年金が乗っかっているイメージです。
医療保険
国民健康保険の被保険者は自営業者等、健康保険の被保険者はサラリーマン等の被用者です。
後期高齢者医療制度の被保険者は75歳以上の後期高齢者ですが、さらに65~74歳未満の一定の障害状態にある人も被保険者になります。
雇用保険
被保険者は一定の条件を満たす被用者です。
一定の条件とは、週20時間以上の労働時間などです。
労災保険
被保険者は全ての被用者です。
正社員も非正規労働者も、外国人労働者も不法就労の人も全てです。
この点が雇用保険と異なる点ですので覚えてください。
全ての被用者は労災保険に加入するんだね。
給与明細を見ればわかるけど、労災保険料って天引きされていないよね。
雇用主が全額負担しているからだね。
介護保険
介護保険の被保険者は以下のように二種類あります。
第2号:40~64歳の医療保険加入者
サラリーマンは40歳になったら介護保険料を給与から天引きされます。
つまり被保険者になるのです。
健康保険料と一緒に天引きされます。
保険料負担者
年金制度
国民年金の保険料を負担するのは、以下のとおりです。
第2号:自己負担なし
第3号:自己負担なし
つまり本人だけでなく世帯主や配偶者に納付義務があるのです。
医療保険
健康保険は労使折半。
国民健康保険は全額自己負担。
後期高齢者医療制度は全額自己負担。
この辺りは当然ですので覚えるまでもありません。
後期高齢者医療制度の保険料は全額自己負担ですが、保険料だけでは財源として1割しか賄うことができません。
残り9割をどうやって捻出しているかというと、公費で5割、国民健康保険や被用者保険からの支援金で4割が賄われています。
また、前期高齢者については、ほとんどが国民健康保険に加入するため、被用者保険から国保へ財政調整が行われています。
つまり、高齢者医療を社会全体で支えるため、75歳以上の後期高齢者について現役世代からの支援金(国民健康保険や被用者保険からの支援金)と公費で約9割を賄っており、65~74歳の前期高齢者については保険者間の財政調整が行われているのです。
介護保険
第1号は全額自己負担。
第2号は労使折半。
労災保険
全額事業主負担。
雇用保険
失業等給付は労使折半ですが、雇用保険二事業は全額事業主負担です。
健康保険も介護保険の第2号もそうですが、サラリーマンなどの被用者が保険料を納める時は「労使折半」になっていることが多いですね。
ただし労災保険は全額事業主負担です。
納付義務者
医療保険
健康保険は事業主、国民健康保険は世帯主が納付義務者です。
後期高齢者医療制度は普通徴収と特別徴収があります。
その他
基本的にはサラリーマンなどの被用者は、事業主が納付義務者になりますので、健康保険とか年金の第2号とか介護保険の第2号とか、労災保険や雇用保険も全て事業主に納付義務があります。
それ以外を見てみますと、自営業者が加入する国民健康保険や年金第1号などは世帯主が納付義務者になります。
そして、介護保険の第1号被保険者には普通徴収と特別徴収という仕組みがあります。
先ほどの後期高齢者医療制度もそうでしたが、これらの制度に加入する人は年金をもらっている高齢者がほとんどなので、多くの年金受給者は特別徴収という形で年金から天引きされます。
過去問
第30回 問題51
社会保険の保険者に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
1 国民年金の保険者は、日本年金機構である。
2 介護保険の保険者は、国である。
3 国民健康保険組合の保険者は、市町村である。
4 健康保険の保険者は、全国健康保険協会及び健康保険組合である。
5 労働者災害補償保険の保険者は、都道府県である。
1 国民年金の保険者は、日本年金機構である。
年金制度の保険者は「政府」です。
年金未納問題や年金記録漏れなど社会保険庁の不祥事で、2010年に社会保険庁の代わりにできたのが日本年金機構です。
2 介護保険の保険者は、国である。
介護保険の保険者は基本的には「市町村」で、複数の市町村で組織する広域連合なども保険者になれます。
3 国民健康保険組合の保険者は、市町村である。
国民健康保険組合というのは同種の事業に従事する人達を組合員にして組織されている法人で、それ自体が保険者としての機能を果たしているので、市町村が保険者ではありません。
4 健康保険の保険者は、全国健康保険協会及び健康保険組合である。
これが正解です。
健康保険には中小企業対象の協会けんぽと大企業対象の組合健保がありますが、協会けんぽの保険者は全国健康保険協会、組合健保の保険者は健康保険組合です。
5 労働者災害補償保険の保険者は、都道府県である。
労働者災害補償保険とは「労災保険」の事です。労災保険の保険者は「政府」です。
第29回 問題43
地方公共団体が関わる社会保険等に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
1 後期高齢者医療は都道府県が保険者となる。
2 後期高齢者医療の給付に要する費用の3分の2は、保険料で賄われている。
3 国民健康保険と健康保険との間では、財政調整は行われない。
4 介護保険では市町村で組織する広域連合が保険者となることができる。
5 介護保険の財源として、国は各保険者に対し介護給付及び予防給付に要する費用の25%を一律に負担する。
1 後期高齢者医療は都道府県が保険者となる。
後期高齢者医療の保険者は市町村がつくる広域連合です。都道府県単位で1つの市町村広域連合が保険者になりますので、都道府県が保険者であるように勘違いしてしまいがちですが、市町村が保険者です。
2 後期高齢者医療の給付に要する費用の3分の2は、保険料で賄われている。
後期高齢者医療の給付に要する費用の2分の1が保険料です。
3 国民健康保険と健康保険との間では、財政調整は行われない。
前期高齢者は医療保険の間で財政調整が行われます。
4 介護保険では市町村で組織する広域連合が保険者となることができる。
これが正解です。
5 介護保険の財源として、国は各保険者に対し介護給付及び予防給付に要する費用の25%を一律に負担する。
介護保険の財源として国が一律に負担するのは20%です。
介護保険の国庫負担金は20%で、調整交付金として5%が割り当てられています。
ややこしいです。
次の記事
次は、社会保障制度の財源を見ていきます。
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