日本の福祉は「高齢者」「障害者」「児童」の3者を中心に発展してきました。
この3者は社会的弱者として認知されているからです。
ですので虐待の概念もこの3者にしかありません。
例えば親が児童を殴れば児童虐待、施設職員が高齢者を殴れば高齢者虐待ですが、会社で上司が部下を殴っても虐待とはいいません。
パワハラといいます。
虐待は行為者と被害者を抑えることが重要です。
被害者は「高齢者」「障害者」「児童」以外にはいませんので、それぞれの行為主体をまず押さえましょう。
最も早くに制定された児童虐待防止法から見ていきます。
2000年 児童虐待防止法
行為主体:「保護者」
虐待類型:「身体的虐待」「心理的虐待」「性的虐待」「放置(ネグレクト)」
通報義務:虐待を受けたと思われる児童を発見した者は速やかに福祉事務所、児童相談所に通報義務あり
虐待防止法は児童が最初で2000年に制定されています。
実は戦前の1933年に旧児童虐待防止法が制定されていて、当時は14歳未満の児童の虐待防止と児童労働の禁止を謳ったものでした。
現在の児童虐待防止法では、児童の定義は18歳未満だったね。
この旧児童虐待防止法は、戦後の児童福祉法の成立に伴い、1947年に廃止になっています。
児童虐待の禁止については「児童福祉法」にも規定されていて通報義務も明記されていたけど、1990年以降徐々に児童虐待件数が増加し、2000年に児童虐待防止法ができたんだ。児童虐待防止法の通報義務は広く知れ渡り、児童虐待通報件数も増加していったよ。1990年には1,000件程度だった虐待件数が、2020年には20万件にもなってしまったよ。
児童虐待で特徴的なのは虐待類型として「経済的虐待」がないことです。
児童ですから搾取するような貯金はありませんので。
父親が母親に暴力を振るうようなDVが、児童の見ているところで行われる「面前DV」なども虐待になり、「心理的虐待」に分類されます。
このような面前DVが多いため児童虐待で最も多いのは「心理的虐待」です。
通報を受けた市町村は児童相談所に送致するかの判断をし、一時保護をすべきであると判断すれば都道府県知事又は児童相談所長に通知します。
2005年 高齢者虐待防止法
行為主体:「養護者」「施設従事者」
虐待類型:「身体的虐待」「心理的虐待」「性的虐待」「放置(ネグレクト)」「経済的虐待」
通報義務:生命または身体に重大な危険が生じている場合に市町村への通報義務あり
高齢者虐待で最も多いのは身体的虐待です。
家族や施設職員から叩かれた等、全て虐待に該当します。
通報義務については「生命または身体に重大な危険が生じている場合に」となっていますので、逆に言えば重大な危険が生じていなければ通報義務はないということになります。
2011年 障害者虐待防止法
行為主体:「養護者」「施設従事者」「使用者」
虐待類型:「身体的虐待」「心理的虐待」「性的虐待」「放置(ネグレクト)」「経済的虐待」
通報義務:虐待を受けたと思われる障害者を発見した者はただちに市町村に通報義務あり
障害者虐待で特徴的なのは使用者による虐待が定義されていることです。
障害者は一般就労でも福祉的就労としても、使用者に雇われて働いている人が多いです。
そして身体的虐待が最も多いです。
養護者による虐待では通報を受けた市町村は都道府県への報告義務はありませんが、施設従事者による虐待では市町村は都道府県へ報告しなければなりません。
さらに使用者からの虐待では市町村への通報義務、通報された市町村は都道府県に報告し、都道府県は都道府県労働局へ通知します。
まとめ
それぞれの行為主体、虐待類型、通報義務について整理して記憶しましょう。
児童は心理的虐待、高齢者と障害者は身体的虐待が最も多いことを押さえておきましょう。
障害者虐待は年間数千件、高齢者虐待は1万数千件ですが、児童虐待は今や20万件を超えています。
統計を取り始めた1990年は1,000件程度でした。
これは、児童虐待防止法の施行により通報義務が課せられたこともありますが、実体として増えていることは確かで、特に心理的虐待が急増しています。
子どもが虐待される悲しいニュースが後を絶ちません。
なんとかしなくてはなりません。
過去問
第29回 問題77
「高齢者虐待防止法」、「児童虐待防止法」及び「障害者虐待防止法」に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
1 「高齢者虐待防止法」における「高齢者虐待」の定義には、使用者による高齢者虐待が含まれている。
2 「障害者虐待防止法」における「障害者虐待」の定義には、特別支援学級教職員による障害者虐待が含まれている。
3 「児童虐待防止法」における「児童虐待」の定義には、保育士による児童虐待が含まれている。
4 設問に掲げた三法の虐待の定義には、いずれも、いわゆる経済的虐待が含まれている。
5 設問に掲げた三法の虐待の定義には、いずれも、いわゆるネグレクト(放置・放任等)が含まれている。
1 「高齢者虐待防止法」における「高齢者虐待」の定義には、使用者による高齢者虐待が含まれている。
使用者の虐待が規定されているのは障害者虐待です。
高齢者には使用者による虐待が定義されていません。
2 「障害者虐待防止法」における「障害者虐待」の定義には、特別支援学級教職員による障害者虐待が含まれている。
こんな規定はありませんので間違いです。
3 「児童虐待防止法」における「児童虐待」の定義には、保育士による児童虐待が含まれている。
児童虐待防止法には保護者による虐待しか規定されていませんので間違いです。
4 設問に掲げた三法の虐待の定義には、いずれも、いわゆる経済的虐待が含まれている。
児童虐待防止法には経済的虐待が規定されていませんので間違いです。
5 設問に掲げた三法の虐待の定義には、いずれも、いわゆるネグレクト(放置・放任等)が含まれている。
正しいです。
第35回 問題138
「児童虐待防止法」に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 児童相談所長等は、児童虐待の防止及び児童虐待を受けた児童の保護のため、施設入所している児童を除き、面会制限を行うことができる。
2 児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者は、できる限り通告するよう努めなければならない。
3 児童の福祉に職務上関係のある者は、児童虐待の早期発見を行わなければならない。
4 児童が同居する家庭における配偶者に対する生命又は身体に危害を及ぼす暴力は、児童虐待の定義に含まれる。
5 児童に家族の介護を行わせることは、全て、児童虐待の定義に含まれる。
(注) 「児童虐待防止法」とは、「児童虐待の防止等に関する法律」のことである。
1 児童相談所長等は、児童虐待の防止及び児童虐待を受けた児童の保護のため、施設入所している児童を除き、面会制限を行うことができる。
誤りです。施設入所している児童は例外ではありません。
2 児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者は、できる限り通告するよう努めなければならない。
誤りです。通報義務があります。
3 児童の福祉に職務上関係のある者は、児童虐待の早期発見を行わなければならない。
このような義務は無く努力義務です。
4 児童が同居する家庭における配偶者に対する生命又は身体に危害を及ぼす暴力は、児童虐待の定義に含まれる。
これが正解です。面前DVは心理的虐待です。
5 児童に家族の介護を行わせることは、全て、児童虐待の定義に含まれる。
誤りです。これはヤングケアラーの例ですが、全て児童虐待に該当するわけではありません。
第30回 問題140
事例を読んで、S市子ども家庭課の対応として、最も適切なものを1つ選びなさい。
[事例] S市子ども家庭課は、連絡が取れないまま長期間学校を欠席している児童がいると学校から通告を受けた。S市では虐待の疑いがあると考え、A相談員(社会福祉士)が直ちに家庭訪問を実施した。しかし、保護者と思われる人物から、「子どもに会わせるつもりはない」とインターホン越しに一方的に告げられ、当該児童の状態を把握することはできなかった。
1 家庭訪問の結果を学校に伝え、対応を委ねる。
2 近隣住民に通告のことを伝え、児童を見かけられたらS市に情報提供してもらう。
3 一時保護などの可能性を考慮し、児童相談所長に通知する。
4 家庭内への強制的な立入り調査を行い、直ちに児童の安全を確認する。
5 親権喪失審判請求の申立てを行う。
選択肢3が正しいです。
虐待の可能性があるということなので、一時保護などの可能性を考慮して児童相談所長に通知します。
第31回 問題137
X保育園に転園して間もないGちゃん(5歳)は、父親が迎えに来るとおびえた表情をする。母親の顔にはアザができていることもあった。今朝、Gちゃんを送ってきた母親の顔は腫れており、保育士が声を掛けると避けて、すぐに帰ってしまった。お昼寝の時間になり、Gちゃんは保育士の耳元で、昨夜、父親が母親を激しく殴ったことを打ち明けた。Gちゃんが寝た後、保育士はこのことを園長に報告した。
次の記述のうち、保育所の初動対応として、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 職員会議を開いて全職員にこのことを伝え、意見を聞いて対応を検討する。
2 園長から児童相談所に通告する。
3 母親が迎えに来たら、詳しい状況を聞くことにする。
4 Gちゃんの家庭の様子を、近隣に住んでいる他の園児の保護者に聞く。
5 父親と連絡を取り、Gちゃんの話を伝え、状況を尋ねる。
選択肢1、3、4、5のような悠長な対応はNGです。
虐待案件は即通報ですので選択肢2が正しいです。
第31回 問題142
「平成28年度福祉行政報告例」(厚生労働省)における児童相談所の相談に関する統計の説明のうち、正しいものを1つ選びなさい。
1 児童相談所が対応した児童虐待相談件数は、10万件を超えている。
2 児童相談所が対応した虐待相談を虐待種別でみると、身体的虐待が最も多い。
3 児童相談所が対応した相談のうち、児童福祉法に基づく入所措置をとったものは3割程度である。
4 児童相談所が受け付けた相談の相談経路は、学校が最も多い。
5 児童相談所が受け付けた障害相談の内訳でみると、肢体不自由相談が最も多い。
1 児童相談所が対応した児童虐待相談件数は、10万件を超えている。
これが正解です。
1990年に統計を取り始めた時は1000件程度だった児童虐待は、増加し続け、ついに10万件を超えました。25年程で100倍になったのです。2000年に児童虐待防止法ができて通報義務が課されたことで増えた分もあるでしょうが、実態として増えていることも確かです。
試験委員は自分が最も訴えたい内容を正解にする傾向があります。この時は虐待件数が10万件を越えるという衝撃を問題で伝えたかったのでしょう。それから2020年現在では20万件に達する勢いです。
2 児童相談所が対応した虐待相談を虐待種別でみると、身体的虐待が最も多い。
心理的虐待が最も多いです。
3 児童相談所が対応した相談のうち、児童福祉法に基づく入所措置をとったものは3割程度である。
2%程度です。
4 児童相談所が受け付けた相談の相談経路は、学校が最も多い。
相談経路で最も多いのは「家族や親戚」で、3割を超えています。児童虐待相談に限定すると相談経路で最も多いのは「警察」で、4~5割を占めています。児童虐待相談の場合、「家族」が相談経路になるのは1割もありません。この違いは納得しやすくわかりやすいですね。虐待の場合は「家族」が加害者であることが多いですから。
5 児童相談所が受け付けた障害相談の内訳でみると、肢体不自由相談が最も多い。
知的障害相談が最も多いです。
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次は、社会的養護としての「養子縁組と里親制度」を学びます。
子どもを虐待等から守る制度として、特別養子縁組と専門里親をしっかり理解しましょう。
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