イギリスの福祉の歴史では、ベヴァリッジ報告が出されたころの社会民主主義、サッチャー政権の新自由主義など、様々な福祉国家の形態が出てきました。
ここでは福祉国家についてさらに詳しく掘り下げて学びます。
エスピン-アンデルセンは福祉国家を3つに分類しました。

エスピン・アンデルセンの福祉国家3形態
自由主義レジーム
自由主義レジームは市場の役割が大きく、社会保障は最低限、貧富の差は拡大します。選別主義で人々はスティグマを感じます。現在のアメリカやカナダ、オーストラリアなどは自由主義レジームです。
保守主義レジーム
保守主義レジームはリスクの共同負担や家族主義によって、家族や職域の役割が大きいタイプです。現在のドイツやフランス、イタリアは保守主義レジームです。
社会民主主義レジーム
社会民主主義レジームは国家の役割が大きく、社会保障が手厚いので貧富の差は小さくなります。現在のスウェーデンやデンマーク、ノルウェーは社会民主主義レジームです。

日本は自由主義レジームと保守主義レジームの中間と言われてるよ。
3つの指標
上で示した福祉国家の3類型は何を基準に決まるのでしょう。それは以下の3つ指標です。
脱商品化
脱商品化は、個人や家族が働いていても働かなくても、一定水準の生活を維持することができることです。
つまり自分を商品にする必要がないかどうかの指標です。

社会保障が手厚ければ自分を商品にして働く必要はないよね。
社会的階層化
社会的階層化は、職種や社会的階層に応じて給付やサービスに差があることです。
脱家族化
脱家族化は、家族間の経済的依存を断ちきる政策です。
つまり家族に頼らず生きられるかの指標です。
| レジーム | 脱商品化 | 脱家族化 | 階層化 | 例 |
|---|---|---|---|---|
| 自由主義レジーム | 低 | 中 | 高 | アメリカ、カナダ、オーストラリア |
| 保守主義レジーム | 高 | 低 | 高 | ドイツ、フランス、イタリア |
| 社会民主主義レジーム | 高 | 高 | 低 | スウェーデン、デンマーク、ノルウェー |
福祉政策の学説
福祉の社会的分業論
ティトマス(Titmuss, R.)は、福祉の給付を「社会福祉」「企業福祉」「財政福祉」に区別した福祉の社
会的分業論を提唱しました。

社会分業論といえばデュルケムだけど、「福祉の社会的分業論」はティトマスだね。
収斂理論
ウィレンスキー(Wilensky, H.)は、経済成長、高齢化、官僚制が各国の福祉国家化を促進する要因で
あるという収斂理論を提唱しました。
福祉ミックス論
ローズ(Rose, R.)は、社会における福祉の総量(TWS)は家庭(H)、市場(M)、国家(S)が担う
福祉の合計であるという福祉ミックス論を提唱しました。政府による公的サービスに依存するのではなく、市場やインフォーマルな部門も取り入れた福祉サービスの提供を主張する考えです。
市民権理論
マーシャル(Marshall, T.)は、市民権が18 世紀に市民的権利(公民権)、19 世紀に政治的権利(参政
権)、20 世紀に社会的権利(社会権)という形で確立されてきたという市民権理論を提唱しました。

市民権は「シティズンシップ」だね。
過去問
第28回 問題22
エスピン−アンデルセン(Esping-Andersen,G.)の「レジーム」理論に関する記述として、正しいものを1つ選びなさい。
1 福祉国家は、社会的階層化のパターン形成に重要な役割を演じる。
2 脱商品化とは、労働者が労働能力を喪失することである。
3 脱家族化とは、単身世帯の増加のことである。
4 福祉レジーム概念は、福祉国家の否定から生まれた。
5 雇用・労働市場は、福祉レジームの在り方に影響しない。
1 福祉国家は、社会的階層化のパターン形成に重要な役割を演じる。
これが正解です。エスピン-アンデルセンは脱商品化と階層化、脱家族化の3つの指標を用いて自由主義、保守主義、社会民主主義の3つのレジームに類型化しました。つまり福祉国家は社会的階層化の形成に影響を与えるということです。
2 脱商品化とは、労働者が労働能力を喪失することである。
間違いです。脱商品化とは仮に労働しなくても生活を維持できるかどうかの指標です。
3 脱家族化とは、単身世帯の増加のことである。
間違いです。脱家族化とは家族に頼らず生活できるかどうかの指標です。
4 福祉レジーム概念は、福祉国家の否定から生まれた。
間違いです。福祉レジームの概念は福祉国家を分類したもので、福祉国家を否定したものではありません。
5 雇用・労働市場は、福祉レジームの在り方に影響しない。
間違いです。福祉レジームによって給与や雇用などの考え方が異なるため、雇用・労働市場は影響を受けます。
第36回 問題28
次のうち、エスピン-アンデルセン(Esping-Andersen, G.)の福祉レジーム論に関する記述として、最も適切なものを 1 つ選びなさい。
1 福祉レジームは、残余的モデルと制度的モデルの 2 つの類型からなる。
2 市場や家族の有する福祉機能は、福祉レジームの分析対象とはされない。
3 スウェーデンとドイツは同一の福祉レジームに属する。
4 各国の社会保障支出の大小といった量的差異に限定した分析を行っている。
5 福祉レジームの分析に当たり、脱商品化という概念を用いる。
1 福祉レジームは、残余的モデルと制度的モデルの 2 つの類型からなる。
誤りです。自由主義レジーム、保守主義レジーム、社会民主主義レジームの3つからなります。
2 市場や家族の有する福祉機能は、福祉レジームの分析対象とはされない。
誤りです。市場や家族の有する福祉機能も分析対象であり、例えば市場や家族の機能が強調されるのは自由主義レジームです。
3 スウェーデンとドイツは同一の福祉レジームに属する。
誤りです。スウェーデンは社会民主主義レジーム、ドイツは保守主義レジームです。
4 各国の社会保障支出の大小といった量的差異に限定した分析を行っている。
誤りです。社会保障支出の規模だけでなく、雇用政策の役割も分析対象です。
5 福祉レジームの分析に当たり、脱商品化という概念を用いる。
これが正解です。脱商品化、脱家族化、社会的階層化という概念が用いられます。
第34回 問題24
福祉政策の学説に関する次の記述のうち、最も適切なものを1 つ選びなさい。
1 ローズ(Rose, R.)は、経済成長、高齢化、官僚制が各国の福祉国家化を促進する要因であるという収しゅう斂れん理論を提示した。
2 エスピン‒ アンデルセン(Esping-Andersen, G.)は、自由主義・保守主義・社会民主主義という3 類型からなる福祉レジーム論を提示した。
3 マーシャル(Marshall, T.)は、社会における福祉の総量(TWS)は家庭(H)、市場(M)、国家(S)が担う福祉の合計であるという福祉ミックス論を提示した。
4 ウィレンスキー(Wilensky, H.)は、福祉の給付を「社会福祉」「企業福祉」「財政福祉」に区別した福祉の社会的分業論を提示した。
5 ティトマス(Titmuss, R.)は、市民権が18 世紀に市民的権利(公民権)、19 世紀に政治的権利(参政権)、20 世紀に社会的権利(社会権)という形で確立されてきたという市民権理論を提示した。
選択肢2が正解です。典型的な入れ替え問題で、
1 →ウィレンスキー
3 →ローズ
4 →ティトマス
5 →マーシャル
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次は、都市化の理論について学びます。
人が都市に住み始めると、コミュニティはどうなる?!



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