医療保険の種類
全ての国民はいずれかの公的医療保険に加入しなければなりません。
自営業者であれば国民健康保険、サラリーマンであれば健康保険など。
3カ月以上適法に在留する外国人でも国民健康保険に加入しなければなりません。
僕は国民健康保険を略したのが健康保険だと思ってたよ。なんとややこしいネーミングなんだと憤ったよ。
医療保険は、他の社会保険制度と比べて複雑な仕組みになっています。
以下のように、大きく3種類(被用者保険、国民健康保険、後期高齢者医療制度)に分かれています。
個人事業主などが加入する国民健康保険、サラリーマン等が加入する健康保険、そして後期高齢者等が加入する後期高齢者医療制度です。
・市町村国保
・国保組合
■被用者保険
・健康保険(協会けんぽ、健保組合)
・船員保険
・共済組合
■後期高齢者医療制度
国民健康保険
国民健康保険は2018年度から財政運営の責任主体は都道府県になりました。
なので保険者協議会も都道府県に設置されます。
市町村は引き続き保険料の徴収などを担っています。
国民健康保険の保険者は「市町村と都道府県」と覚えておいてください。
国民健康保険は市町村国保と国民健康保険組合に分かれます。
市町村国保は一般の個人事業主が加入するものですが、国民健康保険組合は特定の業種(建設業、医師、芸術家など)が加入する国民健康保険です。
国民健康保険組合はそれ自体が保険者です。
日本に住む外国人も国民健康保険に加入しなければなりません。
被用者保険
被用者保険といえばサラリーマンなどが加入する健康保険ですが、2種類あります。
中小企業等では協会けんぽ、大企業等では組合健保で、協会けんぽの保険者は全国健康保険協会、組合健保の保険者は健康保険組合です。
さらに「船員保険」というものがあります。
これは船員限定の医療保険で、実はもともと1939年に「船員保険法」というのができて、これは船員のための年金、医療保険、労働保険などが含まれた手厚い制度でした。この船員保険法は年金制度としては日本初です。
戦時中の船員は貴重だったので手厚い社会保障があったよ。
この船員保険法は、1986年に年金部分が厚生年金に統合され、労災や失業保険部分も労災保険と雇用保険に移行したため、現在の医療保険のみの形として残っています。
後期高齢者医療制度
1983年からの老人保健法を廃止し、2008年に高齢者医療確保法が制定されたことで後期高齢者医療制度がスタートしました。
75歳以上になると、国民健康保険等に加入していた前期高齢者は、後期高齢者医療制度に加入することになります。
また、65歳以上75歳未満の一定の障害状態にある人も対象です。
年間40兆円という国民医療費のうち、75歳以上の後期高齢者の医療費は3割を占めています。
金額にすると一人当たり年間90万円(65歳未満は年間20万円)なので、75歳以上の医療費がいかに高いかわかるでしょう。
そのために後期高齢者医療制度をスタートさせ、税源の1割を保険料で賄うようになったのです。
それまでの老人保健法では財源に後期高齢者の保険料は拠出されてなかったよ。
療養給付
我々が最も身近に感じる医療保険の制度はこれですね。
上で挙げたように医療保険には様々な種類がありますが、どれに加入しても療養給付を受けられます。
通院した時に医療費の自己負担額1~3割がありますが、この程度の支払いで済んでいるのは医療保険からの療養給付があるからです。
~小学校入学前:2割
~70歳まで:3割
~75歳まで:2割
75歳以上:1割~2割(現役並所得者は3割)
高額療養費制度
療養給付で負担が抑えられている医療費ですが、それでも何度も通院したり大きな手術などをすると高額になってしまいます。
そんなときに、一定期間内に一定額以上となった医療費を返金する仕組みが高額療養費制度です。
グラフを見て分かるように、所得によって自己負担限度額が決められており、例えば年収330万円未満の人であれば、医療費がいくらかかっても約6万円を超えた分は戻ってきます。
年収が1160万円以上の人は、300万円の医療費がかかったら自己負担限度額は27万円程度ですね。
上のグラフは70歳未満の場合で、70歳以上の場合は別のグラフになります。
つまり、自己負担限度額は収入と年齢の2点で決められているということです。
1カ月間にかかった医療費が合算でき、さらに同居していなくても扶養関係にあれば世帯で合算できます。
ただし別の医療保険同士での合算はできません。
請求は2年で時効になります。
医療の現物給付が可能になり、窓口でいったん全額を建て替える必要がなくなりました。
傷病手当金
普段生活をしていてケガをして働けなくなった場合、その日から4日目以降に給与の2/3程度(67%)が支給される手当です。
最長で1年6カ月支給されます(途中で退職しても支給されます)。
この期間は障害年金の初診日から障害認定日までの期間と一致します。
つまり障害を負って働けなくなった時、1年6カ月は傷病手当金、その後は障害年金を受給というケースを想定したものです。
勤務中に負ったケガなどは労災保険なので傷病手当金はもらえません。
出産手当金と出産育児一時金
出産育児一時金は医療保険の被保険者本人と被扶養者の出産の際に一律50万円支給される一時金です。
健康保険の被保険者が出産した場合は出産育児一時金。
健康保険の被扶養者が出産した場合は、家族出産育児一時金。
出産手当金は被保険者が出産して産前産後(出産前42日、出産後56日を限度として)に仕事ができなかったために給料がもらえない場合に標準報酬月額の2/3程度が支給されます。
出産育児一時金と出産手当金は併給できます。
過去問
第31回 問題70
日本の公的医療保険の給付内容に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 療養の給付に係る一部負担金割合は、被保険者が75歳以上で、かつ、現役並み所得の場合には2割となる。
2 高額療養費の自己負担限度額は、患者の年齢や所得にかかわらず、一律に同額である。
3 食事療養に要した費用については、入院時食事療養費が給付される。
4 出産育児一時金は、被保険者の出産費用の7割が給付される。
5 傷病手当金は、被保険者が業務上のケガで労務不能となった場合に給付される。
1 療養の給付に係る一部負担金割合は、被保険者が75歳以上で、かつ、現役並み所得の場合には2割となる。
75歳以上の人は1割負担ですが、現役並の所得があれば3割負担となります。
2 高額療養費の自己負担限度額は、患者の年齢や所得にかかわらず、一律に同額である。
年齢や所得によって自己負担限度額が変わります。
3 食事療養に要した費用については、入院時食事療養費が給付される。
これが正解です。
4 出産育児一時金は、被保険者の出産費用の7割が給付される。
出産育児一時金は一律42万円支給されます。
5 傷病手当金は、被保険者が業務上のケガで労務不能となった場合に給付される。
傷病手当金は業務外のケガで就労不能になった場合に支給されます。
第30回 問題54
事例を読んで、出産・育児支援に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
[事例]
Cさん(28歳、女性)は、U社に正社員として5年間勤務し、V社に正社員として5年間勤務するDさん(28歳、男性)と婚姻関係にあり同居している。Cさんは4週間後に出産予定日を控え、「育児・介護休業法」に基づく育児休業を取得する予定である。CさんとDさんは、共に健康保険、厚生年金保険及び雇用保険の被保険者である。
1 Cさんが出産した時は、出産育児一時金が支給される。
2 Cさんが育児休業を取得した場合、休業開始時賃金日額の40%の育児休業給付金が支給される。
3 育児休業中、Cさんの厚生年金保険の保険料は、事業主負担分のみ免除される。
4 CさんとDさんが共に育児休業を取得する場合、育児休業給付金は、最長で合計3年間支給される。
5 CさんとDさんの所得を合算した額が一定額に満たない場合、CさんとDさんのどちらかに、出産後、児童扶養手当が支給される。
1 Cさんが出産した時は、出産育児一時金が支給される。
Cさんは健康保険の被保険者なので出産育児一時金が支給されますので正解です。
2 Cさんが育児休業を取得した場合、休業開始時賃金日額の40%の育児休業給付金が支給される。
育児休業給付金は2/3程度(67%)です。
傷病手当金でも雇用保険でもだいたい6割程度は保証されています。
40%では生活苦しいです。
3 育児休業中、Cさんの厚生年金保険の保険料は、事業主負担分のみ免除される。
育児休業中の厚生年金保険料については事業主負担分も自己負担分も免除されます。
4 CさんとDさんが共に育児休業を取得する場合、育児休業給付金は、最長で合計3年間支給される。
父母ともに育児休業を取得する場合は、いくつかの要件がありますが、育児休業の対象となる子供の年齢は原則1歳2カ月まで延長され、さらに、保育所に入れないなどの理由があれば最長2歳まで延長されます。
3年間までは延長されないので間違いです。
5 CさんとDさんの所得を合算した額が一定額に満たない場合、CさんとDさんのどちらかに、出産後、児童扶養手当が支給される。
児童扶養手当はひとり親家庭に支給される手当ですので間違いです。
第32回 問題54
事例を読んで、子育て支援などに関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
[事例]会社員のDさん(32歳、男性)と自営業を営むEさん(30歳、女性)の夫婦は、間もなく第1子の出産予定日を迎えようとしている。Dさんは、厚生年金と健康保険の被保険者で、Eさんは国民年金と国民健康保険の被保険者である。
1 Eさんは、「産前産後期間」の間も国民年金の保険料を支払わなければならない。
2 Eさんが出産したときは、国民健康保険から出産育児一時金が支払われる。
3 Dさんが育児休業を取得する場合、健康保険から育児休業給付金が支給される。
4 Dさん夫妻の第1子の医療保険給付の一部負担は、義務教育就学前までは3割である。
5 Dさん夫妻の第1子が3歳に満たない期間については、月額2万円の児童手当が給付される。
(注)「産前産後期間」とは、出産予定日又は出産日が属する月の前月から4か月間を指す。
1 Eさんは、「産前産後期間」の間も国民年金の保険料を支払わなければならない。
そんなことはありません。
2 Eさんが出産したときは、国民健康保険から出産育児一時金が支払われる。
これが正解です。
出産育児一時金は国民健康保険などの医療保険から支払われます。
3 Dさんが育児休業を取得する場合、健康保険から育児休業給付金が支給される。
育児休業給付金は「雇用保険」から支給されるものなので間違いです。
4 Dさん夫妻の第1子の医療保険給付の一部負担は、義務教育就学前までは3割である。
義務教育就学前までは2割負担です。
5 Dさん夫妻の第1子が3歳に満たない期間については、月額2万円の児童手当が給付される。
3歳未満には1万5千円が給付されます。
次の記事
次は労働保険について取り上げます。
コメント