歴史の問題は、過去問中心の学習では不十分です。
歴史は「流れ」を覚える事がポイントです。
時代の特徴を把握し、なぜその時期にそのような政策がなされたのか、そういった理由や豆知識を合わせて覚える事で忘れにくくなります。
語呂合わせで、「○年に○○が制定された」とだけ覚えたとしても、試験にも仕事にも役に立ちません。
日本の福祉の歴史を、様々な切り口からまとめてみましょう。
例えば、社会保障制度、救貧政策、高齢者福祉、障害者福祉、児童福祉、社会福祉協議会の成立ち、諸外国の歴史などなど。
するとそれぞれの歴史のなかで、重複して何度も出てくるイベントがあることが分かります。
1960年代の高度経済成長と高齢化のはじまり、1973年の福祉元年、1990年の福祉八法改正など、日本の福祉のターニングポイントが見えてきます。
すると自然と流れが覚えられて、自分で説明できるようになります。
これこそ、社会福祉士になってから役立つ知識です。
歴史をなぜ覚えるのか、それは今に繋がっているからです。
今、現在の福祉施策がどのような経緯でできたのかを知ることは、今後のよりよい福祉の形を見出す材料になります。
日本の福祉の歴史
日本の福祉は、救貧政策→社会保障制度(労働者保護)→児童福祉→障害福祉→高齢福祉という大きな流れで発展してきました。
まずは救貧政策として恤救規則から始まりましたが、「無告の窮民」に対して米代のわずかな現金給付のみという頼りにならない規則でした。
イギリスではエリザベス救貧法だったね、イギリスでも救貧政策から福祉は始まったんだ。
その後、米騒動をキッカケに救護法が制定され、現在の生活保護の原型ができました。
同じころから、初の社会保険制度となる「健康保険法」が制定され、その後、船員保険法や厚生年金保険法など労働者を守るための社会保障制度が整備されていきました。戦後すぐには労働基準法や失業保険法も整備されました。
世界初ドイツでの社会保険制度も、疾病保険法、災害保険法という労働者保護のための制度だったよね。
福祉の主たる対象である高齢者、障害者、児童の中で最も早く福祉の対象となってきたのは「児童」です。1933年には児童虐待防止法が制定されます。
子どもは守るべき対象として誰もが認める存在だからだね。
以下のような様々な法律で子供たちは守られてきました。対象年齢を覚えておきましょう。
1900年 感化法:16歳未満
1911年 工場法:12歳未満
1929年 救護法:13歳以下
1933年 児童虐待防止法:14歳未満
戦前の児童は「14歳未満(13歳以下)」が基本ですが、感化法や工場法では少し異なります。
戦後すぐの福祉三法の中で、生活保護法の次にできた児童福祉法は、現在でも児童福祉の中心であって、その後1960年代には児童福祉六法が整います。
障害福祉は戦後の福祉三法の中でも最後に制定された身体障害者福祉法が最初で、次に福祉六法の一角として精神薄弱者福祉法が制定されました。その後、
精神薄弱者福祉法→知的障害者福祉法
障害者自立支援法→障害者総合支援法
など、目まぐるしく法体系が変わっていきます。
福祉年表を見てみましょう。まず救貧政策(緑色)が実施され、そのなかで高齢者も障害者も児童も守られていました。その後、労働者保護(黒色)が発展し、児童福祉(黄色)へと移り変わってきます。児童福祉は六法でがっちりタッグを組んでその後大きな変更はほとんどありません。唯一の改革は児童虐待防止法で、虐待件数が急増してきたことは誤算でした。障害福祉(青色)は児童福祉に遅れて発展してきましたが、2000年以降も大きく法体系が変わっています。それだけ障害福祉はまだまだ発展途上なのです。
高齢者福祉は最も遅く、1963年に制定された老人福祉法が中心となり発展してきました。2000年に介護保険法が制定されてからは介護保険法が中心になりつつありますが、現在でも老人福祉法は健在です。
老人福祉法では救護法で規定された養老院が養護老人ホームになったね。
しかし、日本の福祉は高齢化とともに進んできたと言っても過言ではありません。そういう意味で、高齢化社会を迎えた1970年以降、高齢者福祉の重要性は急速に拡大してきたのです。
戦後日本の福祉変遷
戦後の福祉の軸となるのは、福祉三法→福祉六法→福祉八法→福祉八法改正の流れです。
社会福祉士国家試験にはあまり出題されない内容ですが、福祉の歴史全体を把握する上で必須ですので、しっかり理解しましょう。
戦後福祉のターニングポイントは、「福祉元年」と「福祉八法改正」です。
1973年の福祉元年までは高度経済成長の波に乗って施設などが拡充されてきましたが、同年のオイルショックと高齢化の波によって福祉が縮小(調整)されていきます。
・70歳以上の老人医療費無料化
・高額療養費制度の創設
・年金の物価スライド導入
1990年の福祉八法改正では以下の3点が実施されました。
・高齢者と身体障害者の入所措置権限が町村へ
・老人保健福祉計画が義務化
・在宅福祉サービスが第二種社会福祉事業へ
戦前日本の福祉変遷(救貧政策の歴史)
世界でも日本でも、福祉の始まりは救貧政策からです。
貧困は誰にでも起こりうる全ての人が対象になるからです。
しかし、戦前に恤救規則から始まった日本の福祉は長らく停滞し、民間や地方公共団体に頼っていました。
戦前の日本の福祉のターニングポイントは、「米騒動」です。
恤救規則という相互の情誼に頼っていた政策が、米騒動をキッカケにして政府が本腰を入れて救貧政策を実施するようになります。
それが救護法という形になり、戦後の生活保護法へと続いていきます。
民生委員制度の流れ(済世顧問→方面委員→民生委員)も併せて覚えておきましょう。
高齢者福祉の歴史
日本の高齢者福祉
日本の戦後福祉の流れで最大の特徴は、高齢化に伴う施策です。
急速に進む高齢化に対応して日本の福祉は進んできました。
1994年 高齢社会(高齢化率14%)
2007年 超高齢社会(高齢化率21%)
この3つの年と高齢化率は覚えましょう。
1963年の老人福祉法に始まり、1982年の老人保健法、2000年の介護保険法、2008年の後期高齢者医療制度の流れを押さえ、現在の高齢者福祉が「老人福祉法」と「介護保険法」の2本柱になっていることを知りましょう。
「福祉八法改正」前後のゴールドプラン、新ゴールドプラン、ゴールドプラン21も重要です。
世界の高齢者福祉
障害者福祉では国連の障害者権利宣言や障害者権利条約があります。児童福祉にも児童権利条約など世界的な流れがあります。
しかし高齢者福祉には、そんなものありません。
日本の高齢化は韓国やシンガポールと並んで急速で、高齢化対策や高齢者施策がここまで手厚く、介護保険法があるのも日本と韓国とドイツだけという、高齢者福祉が必要とされている国です。
なので日本国内では一般的な高齢者福祉は世界ではあたりまえではないのです。
障害者福祉の歴史
日本の障害者福祉
高齢者や児童は救貧政策から対象になっていましたが、障害者はなかなか福祉の対象にならず、戦後から、身体障害、知的障害、精神障害の3障害がどのように制度に組み込まれてきたか、障害者基本法で精神障害が規定され、障害者自立支援法で3障害一元化、障害者総合支援法で3障害に加えて難病も支援対象になった、この普遍化の流れを押さえましょう。
そして、心身障害者対策基本法の流れを汲む「障害者基本法」、このような理念法は高齢者福祉や児童福祉にはありません。
児童福祉法には児童福祉の理念が規定されていますが、第3条まで。この3条は戦後の児童福祉法制定時から変更されておらず、これはこれですごいことですが、児童福祉法には福祉サービスも一緒に規定されています。高齢者福祉に至っては理念すら規定されていません。
なぜ障害福祉に理念法が必要なのでしょうか。それは想像に難くありません。
児童や高齢はだれもが辿る道、でも障害はそうではありません。
一昔前は優生思想なるものも、未だに差別や偏見も、そんな様々な考えを持つ人々がいるから、基本的な理念を定める必要があるのですね。
世界の障害者福祉
ノーマライゼーションの理念が初めて盛り込まれた「知的障害者の権利宣言」から、「障害者の権利宣言」、「国際障害者年」、「国連障害者の10年」、そして「障害者権利条約」へと、まさに障害福祉の理念が世界的に広められてきました。
日本でも、2006年に国連で採択された障害者権利条約、この条約の批准という1点に向かって日本の障害福祉は進んでいきます。
児童福祉の歴史
日本の児童福祉
高齢者、障害者、児童という福祉の対象の中で、児童が最も早くから対策がなされています。
子どもを社会的弱者とみて助けようとするのは、多くの人が共感する思いだからでしょう。
虐待防止法ができたのも児童が最初、なんと戦前からできています。
戦後すぐ、1947年に児童福祉法を中心として児童福祉六法が整備されてきました。
児童福祉法の第1条~第3条までに児童福祉の理念が規定され、児童福祉サービスも規定されています。
2012年に「子供・子育て支援法」ができて、現在は児童福祉法との2本立てで運用されています。
世界の児童福祉
1959年「児童の権利宣言」などで謳われた児童の受動的権利から、1989年「児童の権利条約」で能動的権利が盛り込まれ、日本は1994年に「児童の権利条約」批准に至りました。
障害福祉では理念が、児童福祉では児童の権利の移り変わりが世界的な動きで、児童は権利の主体であることが謳われるようになりました。
イギリスの福祉の歴史
世界で最も早く福祉が発展してきたイギリスの福祉は国家試験に頻出です。
慈善組織協会COSやセツルメント運動もイギリス発祥です。
エリザベス救貧法から新救貧法で救済対象が縮小し、ブースやラウントリーの貧困調査から始まった貧困理論、ベヴァリッジ報告からサッチャー政権の小さな政府、ブレア政権の第三の道くらいまでは追いかけていきましょう。
年金、医療保険、労働保険の歴史
社会保障制度の歴史は受験生が最も苦手とする分野です。
そこを福祉年表を利用して視覚的に覚えることで乗り越えましょう。
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次は、福祉の人物まとめです。
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